

この黄金週間の前半、一読してもっとも愉快だったのが、この2冊だ。
建設業の会社を定年退職し、系列会社に嘱託(短時間労働)として入った清田清一が中心人物。彼と二世代同居の家族、そして彼と同年配で幼なじみの立花重雄(自営する居酒屋を早めに息子に譲った)、有村則夫(小さな町工場の経営者)とその家族が主な登場人物だ。
清田は、その父から譲り受けた剣道場の師範でもある。ただし、定年と前後してすべての弟子が去った。立花は柔道で鍛えた猛者だ。有村は荒事は得意でないが、頭がまわり、仲間の参謀役だ。
「三匹」のおじーさん、もとい、おじさんが屈託して町内の警護役をかってでる。そして、事件が起こる。
要するに、「三匹のおっさん」の和気藹々が横軸、それぞれの家族の交情や葛藤が縦軸、地域に発生する事件が三次元目の軸となる立体的な構成だ。各冊とも6話ずつ、小さな波乱が起きる。
本書の特徴の第一、時間的余裕ができて、まだ健康な団塊世代の生き方の一類型を描く。仕事より家庭、友人、地域への志向だ。人口20万人の小さな地方都市という舞台設定がこれを生かす。
第二、家族は皆同質というわけではないが、孤立した島々でもない。その微妙な関係が、時に特定の一人に焦点を当てた話の中で、くっきりと浮かびあがる。例えば、父子2人の世帯なるがゆえに、主婦の役割を恬淡と務め、遠からぬ日にやってくる父の介護も覚悟して、自分の未来を限定している早苗(有村則夫の娘)。ただでさえ心が揺らぎがちな受験期に、父に再婚の話が持ちこまれ、受容と反発の矛盾した気持ちに苦しむ。
第三、友人は居酒屋で情念を共有するだけでなく、情報の交換もあれば、助け合いもある。しかも、放火魔出没の報にボランティア的夜回りをする、といった事業さえある。共同事業があって、しかもその成果が現れれば、やりがい=居がいは堅固なものとなる。居がいとは生きがいのことだ。「三匹」の生きがいは、多々益々充実する。
第四、地域社会の狭い人間関係において生まれる良質な相互扶助を掬い出している。例えば、馴染みの本屋が万引きに悩まされていると聞けば、押しかけガードマンとなる。しかも、万引きする小学生たちを直接制裁するのではなく、警察に突き出すのでもなく、店主と芝居がかった雑談を交わし、万引きボーイたちの聞耳を立てさせることで、目的を果たすのだ。店主の狙いは、犯罪の検挙ではなく、防止だ。だから、中学生たちを「三匹」が取り押さえたときも、彼らをバイト雇用し、僅かのカネを稼ぐためにいかに膨大な労力を費やすかを体験させるのだ。
第五、タイトルからして意外に思われるかもしれないが、正統的といえば正統的にすぎる青春小説だ。清田清一の孫、祐希は高校3年生。髪を染め、チャラチャラした友人たちとチャラチャラした遊びを重ね、言葉遣いは荒く、最終学年になっても進路が曖昧な浮ついた若者だが、バイトはきっちり勤め、世間知もなかなかだし、筋の通ったところもある。夜道で暴行される寸前、「三匹」の手を借りて救った早苗(有村則夫の娘)と「青い山脈」のような付き合いを深めていく。
第六、世代が異なる複数の女性にも焦点を当て、現代女性の百態が浮かびあがる。早苗については第二で書いた。その早苗の同級生、富永潤子は、父の転勤に伴って転校が多いのだが、さればこそ発生する同級生との付き合いの難しさが描かれる。あるいは、お嬢さん育ちでパートの仕事になかなか適応できず、人間関係に悩むが、その中で成長する貴子(清田清一の子の健児の妻)。そして、小学校時代の同級生に愛の告白をされ、グラッとなる登美子(立花重雄の妻)。
以上、要するに、老若男女のいずれも、寝ころんで読めるし、結末は爽やかだから、読後安眠できる小説が本書だ。
□有川浩『三匹のおっさん』(文春文庫、2012)
□有川浩『三匹のおっさん ふたたび』(文藝春秋、2012)
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