5月5日、日本の原発がすべて停止した。
この状態で電力がどの程度足りるのか。足りないのではないか、と思う一方、実は足りるのだと言われると、これを否定できる情報を持っていない。
政治的な利害からして、現在、自分の責任で原発運転再開の許可を出せる自治体首長はいない【注1】。
マネー論的観点に立てば、この問題の本質は銀行の取り付けのような「信用」の問題だ。
原発稼働容認論者は、原発の安全性と放射能の害が致命的に深刻というほどでないことを科学的な根拠で説得しようとする。しかし、大多数を説得するに至っていない。
原発稼働否定論者の実質的な反対根拠は、科学的な危険性の議論である以前に、原発関係者に対する「不信」のように見える。原発事故の後の情報開示の問題が大きな理由だろう。原発を監督・管理する関係者が発表する情報も、信じられていない。
原発の再稼働を進める場合、直接的には、多くの人々の「精神的コスト」が問題だ。現在、このコストが莫大なのが現実だ。
これは、銀行に取り付け騒ぎが起こって、さらに中央銀行や政府の信頼性も「信じると損をさせられるのではないか」と疑われているような状況に似ている。
<例>日本のバブル崩壊後の金融不信。エンロン事件の後の会計不信。
いわば、最大手メガバンクである東京電力が取り付けに至り、他行である他電力に波及した状況だ。
原発再稼働には、科学的な説得以前に、どのような情報発信なら(<例>誰が言うなら)人々が耳を傾けるか、という問題を真剣に考えるべきだ。
<例>現政権やこれまでの原発関係者では、目下、何を言っても信用されまい。制度や公的組織をつくり替えても、原子力ビジネスに経済的な利害を持っているかもしれないと思われる人(専門家を含む)の発言は、反対派ばかりでなく、懐疑的な中間派の人々からも疑いの目で見られるだろう【注2】。
このあたりの事情は、債権発行体から手数料をもらう格付け会社のビジネスモデルが信用されないのと同じ構造だ。原発問題はサブプライム問題にも似ている。
今夏、電力が足りなくなる場合でも、「精神的コスト」は無視できない。値上げや節電などの我慢を選ぶ国民は少なくあるまい。
会計不信やサブプライム問題は、根本的な解決にほど遠いながらも、時間の経過や不良債権処理と資本注入などで緩和された。
しかし、「原発取り付け」には、出口が見えない。このままでは、監督者=政府まで含めた不信の「半減期」は長くなりそうだ。
【注1】原発再稼働容認の意向を国に伝えた時岡忍・おおい町長は、その創業会社が関西電力と密接な関係にある。今も役員をつとめる鉄工会社「日新工機」は、原発関連の工事を8年間で4億6800万円分受注し、うち関電からの直接受注が3億円を超える。【「緊迫 大飯原発再稼働/判断に注目のおおい町長/創業会社は関電と親密」(「しんぶん赤旗」2012年5月18日)】
【注2】だから、ストレステスト意見聴取会でも、当の原発メーカー関連企業からお金をもらっている委員たちとの利益相反が厳しく追及されたのは当然だ。【「【原発】再稼働の安全は誰が判断するのか ~専門家の偏向~」】
以上、山崎 元 (経済評論家)「信用危機としての原発問題 ~マネー経済の歩き方No.450~」(「週刊ダイヤモンド」2012年5月26日号)に拠る。
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この状態で電力がどの程度足りるのか。足りないのではないか、と思う一方、実は足りるのだと言われると、これを否定できる情報を持っていない。
政治的な利害からして、現在、自分の責任で原発運転再開の許可を出せる自治体首長はいない【注1】。
マネー論的観点に立てば、この問題の本質は銀行の取り付けのような「信用」の問題だ。
原発稼働容認論者は、原発の安全性と放射能の害が致命的に深刻というほどでないことを科学的な根拠で説得しようとする。しかし、大多数を説得するに至っていない。
原発稼働否定論者の実質的な反対根拠は、科学的な危険性の議論である以前に、原発関係者に対する「不信」のように見える。原発事故の後の情報開示の問題が大きな理由だろう。原発を監督・管理する関係者が発表する情報も、信じられていない。
原発の再稼働を進める場合、直接的には、多くの人々の「精神的コスト」が問題だ。現在、このコストが莫大なのが現実だ。
これは、銀行に取り付け騒ぎが起こって、さらに中央銀行や政府の信頼性も「信じると損をさせられるのではないか」と疑われているような状況に似ている。
<例>日本のバブル崩壊後の金融不信。エンロン事件の後の会計不信。
いわば、最大手メガバンクである東京電力が取り付けに至り、他行である他電力に波及した状況だ。
原発再稼働には、科学的な説得以前に、どのような情報発信なら(<例>誰が言うなら)人々が耳を傾けるか、という問題を真剣に考えるべきだ。
<例>現政権やこれまでの原発関係者では、目下、何を言っても信用されまい。制度や公的組織をつくり替えても、原子力ビジネスに経済的な利害を持っているかもしれないと思われる人(専門家を含む)の発言は、反対派ばかりでなく、懐疑的な中間派の人々からも疑いの目で見られるだろう【注2】。
このあたりの事情は、債権発行体から手数料をもらう格付け会社のビジネスモデルが信用されないのと同じ構造だ。原発問題はサブプライム問題にも似ている。
今夏、電力が足りなくなる場合でも、「精神的コスト」は無視できない。値上げや節電などの我慢を選ぶ国民は少なくあるまい。
会計不信やサブプライム問題は、根本的な解決にほど遠いながらも、時間の経過や不良債権処理と資本注入などで緩和された。
しかし、「原発取り付け」には、出口が見えない。このままでは、監督者=政府まで含めた不信の「半減期」は長くなりそうだ。
【注1】原発再稼働容認の意向を国に伝えた時岡忍・おおい町長は、その創業会社が関西電力と密接な関係にある。今も役員をつとめる鉄工会社「日新工機」は、原発関連の工事を8年間で4億6800万円分受注し、うち関電からの直接受注が3億円を超える。【「緊迫 大飯原発再稼働/判断に注目のおおい町長/創業会社は関電と親密」(「しんぶん赤旗」2012年5月18日)】
【注2】だから、ストレステスト意見聴取会でも、当の原発メーカー関連企業からお金をもらっている委員たちとの利益相反が厳しく追及されたのは当然だ。【「【原発】再稼働の安全は誰が判断するのか ~専門家の偏向~」】
以上、山崎 元 (経済評論家)「信用危機としての原発問題 ~マネー経済の歩き方No.450~」(「週刊ダイヤモンド」2012年5月26日号)に拠る。
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