語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【中国】経済危機 ~中国の官僚・財界人、駐在員「30人の証言」~

2015年10月01日 | 社会
 (1)9月23日、次のことが明らかになった。中国の製造業の景況感を示すPMIは47.0ポイント、リーマンショック直後以来の低水準となったのだ。
 9月25日、米ホワイトハウスでオバマ大統領と米中首脳会談に臨んだ習近平・主席は、「中国経済は順調に7%成長している」と嘯いた。

 (2)中国経済は、本当のところ、どうなのか。
 中国の景気は悪いなんてもんじゃない。以前は政府が石橋を叩いて渡るような慎重かつ的確な経済政策をとっていたが、いまの政府が進めているのは、石橋を叩いて割る政策だ。【食品卸会社社長】
 多くの企業が生産過剰に陥っている。そして、中国経済を牽引する投資、輸出、消費のうち、GDPに占める投資の割合が高すぎる。これでは今後、多くの外資系企業が中国から撤退していくだろう。【外資系企業中国総代表】
 せっかく貯めた貯金を、株式投資でパーにしてしまった人がいかに多いことか。こうした現状では、中国経済は今後さらに悪化していくだろう。【銀行員】
 中国経済は、ひと言で言えば発育不良の状態だ。財産を築いた人から、海外へ移住してしまう。【テレビ記者】

 (3)9月、ひっそりと、北京北東部に建つパナソニックのリチウムイオン電池工場(従業員1,300人)が閉鎖された。
 このパナソニック北京工場は、1979年に小平が松下幸之助と建設を決めた外資系工場第1号だった。パナソニックはこれまで先端技術でリチウムイオン電池を生産してきたが、中国市場における電池の過当競争の波に揉まれ、もはや撤退するしかなくなったのだ。
 パナソニックは、上海工場や山東工場も閉鎖した。中国事業を縮小する方向だ。
 7月29日に発表した4~6月期決算では、純利益が前年同期比56.9%アップの595億円と、完全復活をアピールしていた。だが、その陰に、松下幸之助が邁進した中国事業の縮小があったのだ。
 
 (4)シチズンは中国で二つの工場を稼働させていたが、そのうち一つを閉鎖した。解雇された従業員は、1,000人に上る。ニュースにならないが、中小零細の日本企業は、人件費や家賃の高騰などで撤退が相次いでいる。【日本企業研究院長】
 シャープ、ダイキン、TDK、ユニクロ・・・・2015年に入って、次々と中国工場の撤退もしくは一部撤退を始めた。

 (5)8月12日、天津で大爆発事故が発生。その損失額は、730億元(1兆3,700億円)に上る、と報じられた。
 トヨタの自動車4,700台がペシャンコになった。
 同じく近くに工場を持つ日系大手化粧品メーカーも多大な損害を被ったが、事故を起こした天津瑞海国際物流公司に損害賠償を請求しても、交渉は一向に進まない。日本の本社はこの事故を機に天津工場の撤退を決断したが、天津市政府が認めない。中国事業は、進むも地獄、退くも地獄だ。【日系大手化粧品メーカー幹部】
 大連に20年以上住んでいるベテラン駐在員は語る。こんな不景気は初めてだと。不景気のあおりを受けて、かつて1万人以上いた日本人は、もう3分の1規模だ。日本の駐在員仲間と話をしていても、取引先の中国企業が夜逃げした話ばかり。全権を持つオーナーが、会社や従業員を置き捨てて、忽然と消えるのだ。大連に進出している韓国系企業も同じことをやっているが、日系企業は律儀なので損ばかり被っている。【ベテラン駐在員/大連の日系建設会社社長】

 (6)最近の特筆すべき傾向として、日系企業に勤める大卒社員の質が低下している。大卒の初任給が4,000元(75,000円)で、同年齢の工事現場の作業員やレストランのウェイトレスの給料は、人手不足から5,000元(94,000円)以上だ。親が一人っ子に多大な教育費をかけても、報われないため、大卒の若者たちがやる気を失っているのだ。【日系企業向けコンサルタント】
 中国国内で生産し、先進国に輸出するというビジネスモデルがもはや成り立たなくなっている。日本人駐在員向けのだだっぴろいマンションは空きだらけで、北京日本人学校の生徒数も、数年前の600人台から400人台まで減っている。親が一人っ子に多大な教育費をかけても、報われないため、大卒の若者たちがやる気を失っているのだ。【中国日本商会事務局長補佐】

 (7)『中国経済と日本企業白書』(中国日本商会)2015年版によれば、
  (a)日本の対中投資(2014年)は、前年比38.8%減の43億ドルと、2年連続減少した。2012年には過去最高の74億ドルを記録したが、2013年後半から減少基調が続いている。
  (b)今後1~2年の事業展開の方向性について、「拡大」と回答した企業の割合は46.5%(前年比7.7ポイント減少)となっている。2011年と比べると、拡大が大きく減少した(66.8%→46.5%)。

 (8)(7)のデータから見ても、明らかに日本企業は中国市場から「引き」に走っている。
 加えて、9月3日の抗日戦争勝利70周年の軍事パレードのようなことがあると、首都の経済機能がマヒしてしまう。中国日本商会が入っているオフィスビルも2日間、立入禁止になった。【中国日本商会事務局長補佐】
 習近平の時代錯誤的軍事パレードによって、215億元(4,040億円)もの経済損失が生じた【香港紙「リンゴ日報」】。
 高級中華料理店が次々につぶれている。【特派員/産経新聞中国総局】
 不景気で銀行利用者が激減しているため、銀行における待ち時間が短くなった(2時間待ち、3時間待ち→30分待ち)。【同】
 地方では大型トラックが減った。どの地方でも景気が悪い。【同】
 5年前石炭バブルに湧く内蒙古自治区オルドスから北京まで車列が続き、わずか200kmの距離をトラックで20日もかかる世界最悪の渋滞が話題を呼んだ。だがいまや、オルドスは中国最大の「鬼城(グイチェン)」つまりゴーストタウンになって、行き交う車すらほとんどない。【同】
 
 (9)習近平が米国訪問で述べたように、中国経済は悪化しているのではなく、「新常態」(ニューノーマル)という「新たな正常な状態」に移行したのだ。新常態とは、高度成長から中高度成長へ、製造業中心からサービス業中心へ、そしてより環境に優しい節約型の成長へという行くだ。その象徴である大型国有企業を改革し、新たな成長へと向かうのだ。【経済官僚/国務院(中央政府)】
 国有企業は、全国に1,100社余り。国の基幹産業を握り、富の6割強を占めている。
 国有企業の改革に関しては、8月24日に習近平・主席が「指導違憲」(方針)を定めた。国有企業の寡占と、共産党の指導強化を謳ったもので、国民が期待した国有企業の民営化とは正反対の方向だった。
 この「指導意見」が9月13日に発表されると、市場がすぐさま反応した。翌日の市場は失望感に覆われ、上海総合指数は2.67ポイントも安い3114ポイントまで急落した。
 だが、こうした市場の反応を無視するかのように、国営新華社通信は9月17日、「私有化反対を旗幟鮮明にしなければならない」と題した論評を発表し、習近平・主席が進める社会主義の強化を後押しした。

 (10)近未来の中国経済について。
  (a)中国が現在抱えている経済問題を、いかに解決していくかという道筋が、まったく見えてこない。低コストで製品を作って先進国に輸出するという経済モデルは崩壊したものの、それに代わる内需が拡大していないからだ。そのため、香港ナンバーワンの資産家、李嘉誠は、800億元(1兆5,000億円)もの資金を中国から撤退させようとしている。彼に代表されるように、外資の撤退が顕著になってきている。これでどうやって、中国経済が良くなるのか。【上海ナンバーワンの名門校・復旦大学教授】
  (b)不動産バブルが崩壊したところに、株バブルも崩壊した。これを「雪上加霜」(泣きっ面に蜂)という。3ヶ月くらい前まで「微信(ウェイシン)」仲間の話題は株だったが、いまや株の話はタブーだ。現在中国では、経済は急降下していくという見方と、穏やかに落ちていくという見方の2つがある。自分は前者だと見るが、その理由は次のとおりで、楽観的な気分にはなれない。【辛口コラムニスト】
   ①今夏の株価暴落に対する政府の政策は常に後手に回っていて、稚拙な対策しか打てていない。
   ②今後ますます国有企業による市場の寡占化が進んでいき、民業が圧迫されることが明らかである。
   ③習近平政権の極端な反腐敗運動によって、その副作用である官僚たちの「怠工(タイコン)」(サボり癖)が顕著になってきている。
   ④環境保全や社会福祉といった高度経済成長時代に先送りにしてきた問題のツケが、今後一気に襲ってくる。

 (11)IT産業は、いまや製造業に代わって中国経済の唯一の頼みの綱といって過言ではない。
 9月22日から訪米している習近平・主席は、3大IT企業「BAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)」の創業者たちを同行させた。
 中国のインターネットユーザーは6億5,000万人もいる。IT産業の発展は目覚ましく、昨年の名目GDPの2割を越す規模に育っている。中国経済は当面、現在の「まだら模様の景気」が続くだろうが、IT関連の消費が景気下支え材料として続く。【NTTデータ投資チーフストラテジーオフィサー/元日本銀行北京事務所長】
 「中関村」(北京のシリコンバレー)の喫茶店は、投資家とアイデアを持った若者たちとの交流の場になっている。彼らは2万元(38万円)くらいを手にして、次々に起業していく。この活力に中国の未来を感じる。 李克強・首相が先日、「中国は1日1万社が起業している」と述べていた。日本では全国で600万社だが、中国では2年で600万社が誕生している。この活力に中国の未来があるかも。【日本企業研究院長】

 (12)しかし、バイドゥはグーグルの、アリババアマゾンの、テンセントはホワッツアップのそれぞれのパクりではないか。今がピークだろう。【エッセイスト】
 IT産業に期待したって、そんなものはまた一つのバブルにすぎない。世界に通用する自主ブランドを作れないかぎり、中国経済の未来はない。【広告会社社長】
 中国経済が発展できないのは、実力ではなくコネばかりですべてが決まる社会だからだ。【広告会社勤務】
 政府の過度の金融緩和によってインフレを招いた。それで製造業が打撃を受けたのだ。【大学博士過程】
 中国の企業は、経営者と社員との関係が悪すぎる。このことが中国経済が落ち込んでゆく最大の原因だ。【大型国有企業社員】
 3年前まで国有企業には手厚い福利厚生があったが、習近平時代になってすべて消え、初任給も毎年1,000元ずつ減っている。それで優秀な若者から辞めていく。【別の大型国有企業社員】
 中国人は、以前は懸命に働いて生活を向上させてようとしていたが、いまや懸命に働いて何とか食いつなごうとしている。子どものいる家庭は悲惨だ。【設計士】
 こうした声を総合すると、「習近平不況」はやはり当分の間、収まりそうもない。

□記事「実名中国経済「30人の証言」 中国の官僚・財界人、駐在員たちに聞く」(週刊現代」2015年10月10日号)
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 【参考】
【中国】【食】リスクは爆食にとどまらず ~農産物版「AIIB」構想~
【中国】【食】またぞろあきれた事件 ~ピクピク肉にゾンビ肉~
【中国】【食】隠れ中国産チキン ~ファミレス・ファストフード・コンビニ・スーパー~
【中国】【食】日本マクドナルドの対策の不徹底 ~中国産チキン問題~
【中国】チキンの恐怖 ~ファストフード、ファミレス12社~
【食】中国の鶏肉問題--流通のグローバル化で食の安全はますます困難に
【中国】チキンの恐怖 ~日本マクドナルドの中国産鶏肉の危険性~
【中国】習近平、見えてきた独裁者の正体 ~外交・内政・軍事・経済~
【中国】システムの危機と上部からの腐敗 ~老化する大国(3)~ 
【中国】党指導部はゲームの脇役 ~老化する大国(2)~ 
【中国】共産主義の崩壊と伝統的家族への回帰 ~老化する大国(1)~
【中国】低迷する経済 ~習近平政権の1年~
【中国】現地取材で痛感 やっぱり危ない中国産食品
【中国】実録・猛毒食品「僕らだって怖い!」 ~中国人は語る~
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【食】中国産薬漬け・病気鶏肉を輸入する日本マクドナルド



【詩歌】茨木のり子「わたしが一番きれいだったとき」

2015年10月01日 | 詩歌
 わたしが一番きれいだったとき
 街々はがらがら崩れていって
 とんでもないところから 
 青空がなんかが見えたりした

 わたしが一番きれいだったとき
 まわりの人達が沢山死んだ
 工場で 海で 名もない島で
 わたしはおしゃれのきっかけを落としてしまった

 わたしが一番きれいだったとき
 だれもやさしい贈物を捧げてはくれなかった
 男たちは挙手の礼しか知らなくて
 きれいな眼差だけを残し皆発っていった

 わたしが一番きれいだったとき
 わたしの頭はからっぽで
 わたしの心はかたくなで
 手足ばかりが栗色に光った

 わたしが一番きれいだったとき
 わたしの国は戦争で負けた
 そんな馬鹿なことってあるものか
 ブラウスの腕をまくり卑屈な町をのし歩いた

 わたしが一番きれいだったとき
 ラジオからはジャズが溢れた
 禁煙を破ったときのようにくらくらしながら
 わたしは異国の甘い音楽をむさぼった

 わたしが一番きれいだったとき
 わたしはとてもふしあわせ
 わたしはとてもとんちんかん
 わたしはめっぽうさびしかった

 だから決めた できれば長生きすることに
 年とってから凄く美しい絵を描いた
 フランスのルオー爺さんのように
                    ね 

□茨木のり子「わたしが一番きれいだったとき」(『見えない配達夫』、飯塚書店、1958)
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