語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【詩歌】E・ケストナー「絶望第一号」 ~人生処方詩集~

2015年10月31日 | 詩歌
 ちいさな男の子がひとり 往来を走っていた
 そして ほてった手に 一マルク握っていた
 もう 遅かった そして 店員たちは横目で
 壁の時計を見まもっていた

 彼はいそいでいた 彼は跳び上がった そして口の中で言った
 「パン半分 ベーコン四分の一ポンド」
 聞いていると歌のよう 急にそれがやんだ
 手をあけた お金がなかった

 彼は そこに立ちどまった そして 暗やみに立っていた
 ショーウィンドウの中で あかりが消えた
 きらめく星は なるほど きれいだが
 お金を探すには 光がたりぬ

 いつまでもうごくまいとするように
 彼は立っていた そして こんなにひとりぼっちになったことはなかった
 ガラスのそとで 鎧戸(よろいど)が鳴った
 そして 街灯が居睡(いねむ)りをした

 なんども 彼は両手をあけた
 そして なんども ゆっくり裏がえした
 つぎに いよいよ望みが絶えた
 それっきり 拳固をあけなかった・・・・

 父親は お腹をへらしていた
 母親は ぐったりした顔つき
 ふたりは こしかけて 少年を待っていた
 少年は内庭に立っていた ふたりはそれを知らなかった

 母親は そろそろ 心配になった
 彼女は 少年をさがしに行った ついに見つけた
 彼は 絨毯掛けの鉄棒に 黙って寄りかかり
 ちいさな顔を 壁にむけていた

 彼女は ハッとして 訊いた どこに行ってたの?
 すると 彼は大声で泣きだした
 彼の悲しさは 彼女の愛よりも 大きかった
 そして ふたりは しょんぼり 家へはいった

 *

 これは、ケストナーの実体験とされる。

□エーリヒ・ケストナー(小松太郎・訳)「絶望第一号」(『人生処方詩集』、岩波文庫、2014)
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 【参考】
【詩歌】E・ケストナー「顔を交換する夢」 ~人生処方詩集~
【詩歌】戦争を礼賛する牧師 ~E・ケストナーによる諷刺~

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【保健】糖質制限より脂質制限? ~体脂肪を減らす~

2015年10月31日 | 医療・保健・福祉・介護
 (1)炭水化物を制限する食事「糖質制限」は市民権を得たが、「体脂肪」を減らすには「脂質制限」が有効らしい。
 世に数多く見られる糖質制限vs.脂質制限は、ほとんどが自己申告や外来における問診によるもので、厳密な事実に基づくデータとは言い難い。
 先日報告された米国立衛生研究所(NIH)の研究は、対象者全員を入院させて食事や運動量などを管理し、データをとった点がミソだ。

 (2)対象者は、
   ・平均BMI(体格指数)が35.9の肥満者
   ・19人(男性10人、女性9人)
   ・平均年齢35.4歳
 全員がNIHの関連施設に2週間×2回入院し、毎日1時間のトレッドミル運動をこなし、一定の身体活動量を維持した。
 入院初日からの5日間は、総エネルギー量2,740kcalは次のバランスの良い基本食。
   糖質50%
   脂質25%
   蛋白質15%
 それに続いて、
   グループ1:初回入院時に6日間の糖質制限+2回目入院時に6日間の脂質制限
   グループ2:その逆
の2つの群に無作為に割り付けられた。
   ①糖質制限・・・・糖質を800kcal減らす(糖質30%、脂質50%、蛋白質20%)
   ②脂質制限・・・・脂質を800kcal減らす(糖質71%、脂質8%、蛋白質21%)
 両制限食の総エネルギー量は1,928kcalだった。

 (3)結果は、1日あたりの体脂肪減少量は、
   ①糖質制限・・・・35g
   ②脂質制限・・・・89g
と脂質制限が有意に多かった。①糖質制限ではインシュリン分泌量が低下し、脂質燃焼量が」増加したにも拘わらず。
 研究者は、「体脂肪の減少には、インシュリン分泌が関与する必要はないのかもしれない」と推測している。
 また、総コレステロール値など脂質の検査値は、②脂質制限で改善していた。

 (4)あなたがすでに2型糖尿病予備群であれば、インシュリン分泌の負担軽減が期待できる②脂質制限は一考に値するだろう。
 一方、心筋梗塞の既往や家族歴がある方は、②脂質制限の改善効果が望ましい。
 ただし、研究者はこうも言っている。「実生活では“続ける”ことが重要であり、自分はどちらの食事療法ならば続けられそうか、を考えて選択すべきだろう」と。

□井出ゆきえ(医学ライター)「体脂肪を減らすには 糖質制限より脂質制限? ~カラダご医見番・ライフスタイル編 No.2~」(週刊ダイヤモンド」2015年10月日号)
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 【参考】
【保健】受動喫煙が歯周病リスクに ~ただし男性のみ~
【保健】貧乏ゆすりが命を救う? ~マナーより健康~
【保健】「高収入の勝ち組」の健康リスク? ~50歳以上の有害な飲酒~
【保健】照明用白色LEDのブルーライトは安全か?
【保健】目の愛護デー ~緑内障による失明を予防~
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【詩歌】E・ケストナー「顔を交換する夢」 ~人生処方詩集~

2015年10月31日 | 詩歌
 いま話そうとする夢を ぼくが見ていると
 何千という人間が その家へおしかけた
 そして まるで だれかに命じられたいるように
 そして だれもが 自分の顔にうんざりしたように
 みんなが顔をぬいだ

 引っ越しのとき壁の画(え)をはずすように
 ぼくたちは ぼくたちの顔をはずした
 それから それを 両手に持った
 舞踏会のあとで仮面を持つみたいに
 しかし はなやかではなかった その場所は

 目もない 口もない 影法師のようにずんべらぼうなのが
 みんな となりへ手をのばした
 もういちど顔ができるまで
 手ばやく 音もなく とりかえっこがおこなわれた
 見つかりしだい ひとのやつをとった

 急におとなが子供の顔になった
 女の顔にひげが生えはじめた
 老婆がめかけのようににっこりした
 それからみんな駆けだした ぼくもいっしょに鏡の前へ
 しかし ぼくにはぼくが見えなかった

 ますます奪い合いがひどくなった
 ひとりが自分の顔を見つけた
 大声をあげて 彼は人ごみを押しわけた
 そして さんざん 自分の顔を追いかけた
 それでも やっぱり見つからなかった 顔はかくれたままだった

 ぼくはあの長いお下げの子供だったのか
 ぼくはあそこににいる赤毛の女だったのか
 ぼくはあの禿げ頭のどれかだったのか
 ごちゃまぜになった人間の中には
 ぼく自身だった人間は全然見えなかった

 そのとき ぞっとして ぼくは目をさました 寒かった
 だれかがぼくの髪をむしっていた
 指がぼくの口と耳をもみくしゃにした
 怖ろしさがうすらぐと ぼくはわかった
 それは ぼく自身の手だった

 完全に安心したわけでは むろん ない
 ぼくは ぼくとかかわりのない顔をしていないか
 急に跳ね起き あかりをともし
 鏡に駆けより 顔をながめ
 あかりを消し ほっとしてベッドにはいった

□エーリヒ・ケストナー(小松太郎・訳)「顔を交換する夢」(『人生処方詩集』、岩波文庫、2014)
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【詩歌】戦争を礼賛する牧師 ~E・ケストナーによる諷刺~

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