ちいさな男の子がひとり 往来を走っていた
そして ほてった手に 一マルク握っていた
もう 遅かった そして 店員たちは横目で
壁の時計を見まもっていた
彼はいそいでいた 彼は跳び上がった そして口の中で言った
「パン半分 ベーコン四分の一ポンド」
聞いていると歌のよう 急にそれがやんだ
手をあけた お金がなかった
彼は そこに立ちどまった そして 暗やみに立っていた
ショーウィンドウの中で あかりが消えた
きらめく星は なるほど きれいだが
お金を探すには 光がたりぬ
いつまでもうごくまいとするように
彼は立っていた そして こんなにひとりぼっちになったことはなかった
ガラスのそとで 鎧戸(よろいど)が鳴った
そして 街灯が居睡(いねむ)りをした
なんども 彼は両手をあけた
そして なんども ゆっくり裏がえした
つぎに いよいよ望みが絶えた
それっきり 拳固をあけなかった・・・・
父親は お腹をへらしていた
母親は ぐったりした顔つき
ふたりは こしかけて 少年を待っていた
少年は内庭に立っていた ふたりはそれを知らなかった
母親は そろそろ 心配になった
彼女は 少年をさがしに行った ついに見つけた
彼は 絨毯掛けの鉄棒に 黙って寄りかかり
ちいさな顔を 壁にむけていた
彼女は ハッとして 訊いた どこに行ってたの?
すると 彼は大声で泣きだした
彼の悲しさは 彼女の愛よりも 大きかった
そして ふたりは しょんぼり 家へはいった
*
これは、ケストナーの実体験とされる。
□エーリヒ・ケストナー(小松太郎・訳)「絶望第一号」(『人生処方詩集』、岩波文庫、2014)
↓クリック、プリーズ。↓
【参考】
「【詩歌】E・ケストナー「顔を交換する夢」 ~人生処方詩集~」
「【詩歌】戦争を礼賛する牧師 ~E・ケストナーによる諷刺~」
そして ほてった手に 一マルク握っていた
もう 遅かった そして 店員たちは横目で
壁の時計を見まもっていた
彼はいそいでいた 彼は跳び上がった そして口の中で言った
「パン半分 ベーコン四分の一ポンド」
聞いていると歌のよう 急にそれがやんだ
手をあけた お金がなかった
彼は そこに立ちどまった そして 暗やみに立っていた
ショーウィンドウの中で あかりが消えた
きらめく星は なるほど きれいだが
お金を探すには 光がたりぬ
いつまでもうごくまいとするように
彼は立っていた そして こんなにひとりぼっちになったことはなかった
ガラスのそとで 鎧戸(よろいど)が鳴った
そして 街灯が居睡(いねむ)りをした
なんども 彼は両手をあけた
そして なんども ゆっくり裏がえした
つぎに いよいよ望みが絶えた
それっきり 拳固をあけなかった・・・・
父親は お腹をへらしていた
母親は ぐったりした顔つき
ふたりは こしかけて 少年を待っていた
少年は内庭に立っていた ふたりはそれを知らなかった
母親は そろそろ 心配になった
彼女は 少年をさがしに行った ついに見つけた
彼は 絨毯掛けの鉄棒に 黙って寄りかかり
ちいさな顔を 壁にむけていた
彼女は ハッとして 訊いた どこに行ってたの?
すると 彼は大声で泣きだした
彼の悲しさは 彼女の愛よりも 大きかった
そして ふたりは しょんぼり 家へはいった
*
これは、ケストナーの実体験とされる。
□エーリヒ・ケストナー(小松太郎・訳)「絶望第一号」(『人生処方詩集』、岩波文庫、2014)
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【参考】
「【詩歌】E・ケストナー「顔を交換する夢」 ~人生処方詩集~」
「【詩歌】戦争を礼賛する牧師 ~E・ケストナーによる諷刺~」