その坂を急ぎゆく群衆があり
その坂を急いで降りゆく群衆があり
はれやかなほほえみをうかべ追いたてられるように
いずこへともなく消えていく・・・・
もしぼくがぼく自身の番人でないならば
まして兄弟たちの番人でもありえない
ふりかえりざま 冬の陽ざしを盗み見
ぼくを見張る幾千の眼をぼくは知る
朝ならば駅の階段の人ごみのなかに逃げまどい
ふと陥没する大きな穴をぼくは覗く
--だから木枯のふき荒れる日
夜でもいい昼でもいい
手から手 眼から眼へと親しみをかわし
肩をくみ歌いながらに群衆にまぎれてゆく
□中村稔「冬」(『中村稔詩集1944-1986』、青土社、1988)
↓クリック、プリーズ。↓
【参考】
「【本】この1年に出会った本」
「【中村稔ノート】凧 ~戦禍の記憶~」
「【中村稔ノート】ある潟の日没 ~震災と戦災~」
「【読書余滴】追悼、森澄雄の生涯と仕事」
「書評:『本読みの達人が選んだ「この3冊」』」
「書評:『加藤周一自選集8 1987-1993』」