語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【読書余滴】読書道楽の7つの要件 ~加藤周一自選集9~

2010年07月02日 | ●加藤周一
 仕事に関わりのない本を読む愉しみ、すなわち読書道楽の成立要件は7つある。

(1)暇
 釣りは山野に、ゴルフはゴルフ場に出むかなければならないが、読書の場所と時間には制限がない。

(2)カネ
 書物の値段は総じて安い。図書館から借りればタダである。

(3)体力
 読むためには強い足腰を必要としない。病人であろうと、老人であろうと、晩年の永井荷風であろうと。

(4)知力
 格別の知力は不要である。知識のない少年であろうと、物忘れの著しい老人であろうと、それぞれ異なる条件に応じて異なる本がある。

(5)相手
 囲碁は二人、麻雀は四人を必要とするが、読書は独りでも道楽できる。

(6)言葉
 理解する言語が多ければ多いほど愉しみの範囲は広くなる。永井荷風の「万巻の書」の大部分は、おそらく日本語・古典中国語・フランス語の3か国語で書かれていた。「河野与一先生はその三倍ほどの言語を読んだので、愉しみの範囲があまりに広く、常に本を読んでいて、本を書く暇を得なかったほどである」

(7)知的好奇心
 レヴィ=ストロースは言った、すべての人間社会の基本欲求は(a)食欲、(b)性欲、(c)環境保全の欲求である、と。「何故」は知的好奇心の現れである。「知的好奇心は個人において稀には失われることがある。また人によっての強弱もある。しかし多かれ少なかれ誰にも備わっているのが普通である。その知的好奇心が強ければ強いほど、読書の愉しみは増すことになるだろう」
 「人生の環境--自然的および文化的な--はきわめて複雑であり、したがって知的好奇心の対象にはかぎりがない」

【参考】加藤周一『読書道楽』(鷲巣力編『加藤周一自選集』第9巻、岩波書店、2010、所収)
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