語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【ミステリーの雑学】外逃した汚職官僚の「キツネ狩り」 ~中国公安部~

2016年12月11日 | ミステリー・SF
 <「中国もクレジットカード社会になりつつありますからね」
「とくに若い世代はカードのキャッシングをよく使う」
「ですか」
 中国銀聯(ぎんれい)カードは世界一発行枚数が多いクレジットカードと言われている。発行枚数は45億枚を超えているらしい。このカードは銀行のキャッシュカードを兼ねたデビットカードで、中国国内の銀行に口座を作れば自動的に発行される。中国人にとっては、本来クレジットカードを持つことができない低信用の者でもこれを手にすることができる。
「銀聯カードは日本のATMから現金を引き出せるのですか」
「一部のATMだけだが可能だ。今回被害にあったフレンドマートのATMでは、限度額が原則20万円なんだ」
 銀聯カードの暗証番号は6桁だから、銀聯カードによるキャッシングの場合には、世界のほとんどのクレジットカードが4桁で動作が止まるのに、ATMが銀聯カードを認識すると6桁を打ち込むまでは画面が変わらない。
「ATMマシーンも銀聯カードの使用を意識した作りになっているわけですか」
 今や世界中の先進国が、中国マネーを呼び込もうとしているのかもしれない。
「世界中で銀聯カードで金が引き出されているということですか」
 黒田は頷いた。
「今後、中国国内でATM不正引出しの犯罪が起こる可能性もありそうですが」
(中略)
 中国には、中国人民銀行の他に中国農業銀行、中国建設銀行、中国銀行、中国工商銀行の四大銀行がある。そしてこの四大銀行で中国全体の資産の8割を集めている。
「一般国民からすれば、どうせ損をするのは国家でしかないというところだろう」
「国家イコール共産党幹部、という図式なのでしょう」
 憎しみが極限まで達したときに何が起きるのか。
「それにさらに火を付けたのがパナマ文書の影響だ。今回のパナマ文書が出てきて、習近平の名前が取りざたされたことが大きな問題になりつつある」
(中略)
「中国当局は国内の報道だけでなく、海外メディアの報道についても神経をとがらせている様子で、すぐにインターネットの閲覧をできなくしたようですが」
「中国国内ではね」
 ただ、最近の標準的な富裕層の多くは子弟を海外に留学させているから、ネット情報を国内でいくら消しても、知ることができる者は確実に増えていた。
「情報の逆輸入は容易になりましたから」
「それを共産党幹部は一番恐れていると言って過言ではないな。おまけに愛人にはアメリカで子供を産ませているわけだから、その連中もまた賄賂社会の裏側を知り尽くしている」
「アメリカに愛人を置いている幹部はいつでも本国脱出ができるように準備しているわけですね」
「アメリカ国籍を持った子供の父親として居住権を獲得できるからな。そのための金も徐々に持ち出して周到に準備を進めているんだ」
「もし、中国国内で暴動と言うか、反政府活動が起こるとすればいつ頃なのでしょうか」
「それは何とも言えない。中国政府だって指をくわえて待っているわけではない。兆(きざ)しを見つけた段階で徹底的に潰していくだろうし、脱出を企てている幹部連中はトップを目指しているわけじゃないから、適当な時期に金を押さえてしまえばいいだけだ」
「なるほど。不正蓄財による財産の没収ということですね」
「そのために多くの公安要員をキツネ狩りと称して海外に送っているんだ」
 キツネ狩りとは、海外に逃亡した汚職官僚を追跡する作戦のことで、2013年に開始され、既に400人を超える汚職官吏が拘束されている。
 中国人民銀行によると、1990年代半ばから国外に逃亡した官僚や国有企業の職員は1万6千人を超え、持ち出した金額は15兆2,000億円にもなるという。中国政府は、フランス、オーストラリア、カナダなどの主な逃亡先相手国に、回収資産の一部を与えることを条件に、横領資産の回収で協力を得ている。2015年1月、国家公安部は2014年後半の「キツネ狩り成果」として、全世界69の地点から、689人のキツネを逮捕したと発表した。その際、10年以上の外逃生活を続けていたものが117人いたことを明らかにしている。>

□濱嘉之『ゴーストマネー』(講談社文庫、2016)
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 【参考】
【ミステリーの雑学】カードの個人情報漏洩 ~防止法は~
【ミステリーの雑学】EU崩壊の序章 ~フランスにおける次回のテロ~
【ミステリーの雑学】フランスの原発 ~テロのターゲット~
【ミステリーの雑学】紙幣が流通する期間は何年間か?

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