語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【フェルメール】赤い帽子の娘 ~赤瀬川源平『フェルメールの眼』~

2018年08月25日 | □旅
 路上観察学を開拓した赤瀬川源平が、フェルメールの全作品36点の観察を集約したのが本書。たとえば、《赤い帽子の娘》についてこう書く。
 ちなみに、この作品は2018年のフェルメール展(8作品)の一つ。日本初公開。
---(引用開始)---
 何とも大胆な赤い横長の帽子。そして濡れた小さな赤い唇。その二つを結ぶ横長の逆三角形が、薄暗い画面の中でゆっくり右に傾いている。何ごともない穏やかな絵なのに、画家の描く冷徹な空気にひやりとする。
 *
 絵の全体を見ているときは、対象の描写があまりにも自然なのでわからない。でも近づいて見ると、すべてを細かく描き挙げているわけではなく、要点のハイライトだけを、じつに大胆な筆づかいで、あまりにあっさりと描いているのがわかる。フェルメールの透明感の秘密の第1点。
 *
■どきりとする自然さ
 自分にとって不可解であったフェルメールの絵の第一号。
 この絵の自然さにどきりとして、この自然の感触は何かと考えてしまった。
 どきりとするほどの自然さの、その原因の筆頭は光の状態である。頬から下に光が当たり、両眼と、それから顔面のほとんどの面積がうっすらとした陰の中にある。肖像ともなればもっと正面から光を当てるものだが、それをむしろ外している。そしてその人物が、いわゆる理想の美人ではないふつうの感じで、ふと口を半開きにしたままこちらを振り返っている。その唇や瞳が密かに光り、そんなさまざまな自然さが、狂いのない緻密さをもっって描かれている。
 と思うのに、よく見ると衣服の白い襟元や皺のところなど、筆のタッチが大きくて粗い。とりわけそう見えるのは被っている赤い帽子。あまりにも大雑把に赤く塗られているようで、昔の絵葉書などの人工着色みたいな感触である。いったいこれは何だろう。
 *
 まるでUFOのような存在の赤い帽子。ふんわりとした羽毛なのだろうが、古典的な絵の中でこれほどあっさりと色を塗られていると、こちらも落ち着いていられない。この巨大な落差の中に、フェルメールの永遠の新鮮さがセットされている。
---(引用終了)---

【資料】
 (1)フェルメール展・東京会場
  期間:2018年10月5日(金)~2019年2月3日(日)
  会場:上野の森美術館

 (2)展示作品
  1)牛乳を注ぐ女 1660年頃/アムステルダム国立美術館
  2)マルタとマリアの家のキリスト 1654-1656年頃/スコットランド・ナショナル・ギャラリー
  3)手紙を書く婦人と召使い 1670-1671年頃/アイルランド・ナショナル・ギャラリー
  4)ワイングラス 1661-1662年頃/ベルリン国立美術館【日本初公開】 
  5)手紙を書く女 1665年頃/ワシントン・ナショナル・ギャラリー
  6)赤い帽子の娘 1665-1666年頃/ワシントン・ナショナル・ギャラリー【日本初公開】※12/20まで
  7)リュートを調弦する女 1662-1663年頃/メトロポリタン美術館
  8)真珠の首飾りの女 1662-1665年頃/ベルリン国立美術館

□赤瀬川源平『[新装版]赤瀬川源平が読み解く全作品 フェルメールの眼』(講談社、2012)の「1 赤い帽子の娘」を引用

 【参考】
【フェルメール】の秘密情報 ~赤瀬川源平『フェルメールの眼』~
【フェルメール】《ぶどう酒のグラス(紳士とワインを飲む女)》 ~赤瀬川源平『フェルメールの眼』~
【フェルメール】《兵士と笑う娘》 ~赤瀬川源平『フェルメールの眼』~
【フェルメール】《牛乳を注ぐ女》 ~『20世紀最大の贋作事件』~
【フェルメール】の青はどこから来ているか? ~『フェルメール 光の王国』~

 
 《赤い帽子の娘》(1665-1666年頃)/ワシントン・ナショナル・ギャラリー

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