語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【食】偽装表示と景品表示法違反 ~問題の本質が隠蔽~

2013年11月19日 | 社会
 (1)ホテルやデパートなど巨大組織になると、どうしても客の一人一人の顔が見えづらくなる。その分、消費者への責任感が希薄になっている。

 (2)今回明らかになった食品業界の体質を見ると、たとえ消費者の健康に関わるような問題でも、都合が悪いことは隠されてしまう危険性がある。
 加工肉を和牛ステーキと偽ったりする背景に、小売業と違い、レストランなどで提供される食品には表示義務がないことがある。
 レストランでは、シェフなどから材料や産地について、客が直接聞くことができる・・・・というのが表示義務のない理由の一つだ。しかし、店の人と客が親しいケース以外は、実態と乖離している。
 新しい食品表示法では、加工食品の栄養が表示義務化されている。

 (3)ブロイラーを地鶏と表示する(今回発覚した)など、実際よりも優良な製品に見せかける行為は、景品表示法の「優良誤認」にあたる。処分対象となる。消費者庁の措置命令に従わない場合、代表者は2年以下の懲役または300万円以下の罰金、事業者は3億円以下の罰金が科せられる。
 しかし、景品表示法は穴だらけだ。
 景品表示法で問題になっても、一時期騒がれるだけで、「もうやめました」「改善しました」と言えば、実際にはお咎めなし。やりたい放題なのだ。
 原材料をそのまま顧客に売っているスーパーは、まだ気を付けているほうだが、外食産業はザルだ。
 チェーンの居酒屋などは、そのあたりをよくわかっていて、「九条ネギ」と書かれたメニューに、小さい字で「シーズンによっては他の材料に切り替えることがあります」と書かれている。

 (4)産地や成分表示を厳しくチェックされてきたスーパーなどの小売りに比べ、外食産業は法の網の目が緩かった。
 バナメイエビだとか、加工肉の話は昔からあった。それが表示厳格化の流れのなかで表に噴出してきた。
 インジェクション(肉に脂を注入して人工のサシを造る技術)それ自体は悪くない。大手弁当チェーンのステーキ弁当には「やわらか加工を施しています」と注意書きが記されている。これが加工肉だ。
 インジェクションは、豚や馬肉にも応用されている。
 結婚式で、コース料理のメインに丸い筒状の牛のヒレ肉が出てくる。あれは、かなりの割合で成型している。本来、ヒレ肉はヒモ状の部位で厚みがまちまちなので、2本のヒレ肉を結着剤でくっつけてから、形を整えている。

 (5)どこまで客を騙す意図があったかはさて措き、表示と違う食材は、あらゆる食品に入っている可能性が高い。
 高島屋の後にも、三越伊勢丹、そごう・西武、東武、西武、松屋、丸井、東急、帝国ホテル、ホテルオークラでも同様の問題が発覚した。
 これが、スーパー、コンビニ、ファーストフード、食品を扱うネット通販に拡がれば、全国で謝罪返金騒動が起きる。

 (6)次々と行われる謝罪会見、トップの辞任。
 消費者が被害者なのは間違いないが、この騒動の結果、誰が得をするのか。
 この事件が収束した頃、食べ物の価格は高くなっているだろう。偽装表示ができなくなるから、採算がとれるまっとうな価格設定になる。普通に考えれば、和牛弁当が数百円で買えるはずはないのであった。

 (7)阪急阪神ホテルズの件で偽装とされた47品目のうち、景品表示法違反にあたる可能性があるのは、産地が異なるのに「桐島ポーク」とした件と、津軽鶏を「津軽地鶏」とした件くらいだ。【郷原信郎・弁護士】
 では、なぜここまで大騒ぎになったかというと、阪急阪神ホテルズのコンプライアンスと危機対応があまりに拙劣だったためだ。たとえば47品目を一覧表にしてしまったので、高級レストランでたくさん偽装が行われている印象を与えてしまった。実際は、ほとんどなかったのに。客の申告に基づいて返金したり、食事券を渡しているが、完全にやりすぎ。そもそも自分たちの料理の価値が損なわれたのではなく、表示の問題だったわけだから。高島屋のテナントが偽装したことにより、高島屋の幹部が頭を下げたが、これもテナントが個別に対応する問題だ。【同】

 (8)1社が過剰対応し、それが前例になると、続く各社はたとえ大して反省していなくても、とりあえず発表して頭は下げておこう、うるさい客にはカネを返そう、という発送になりがちだ。
 横並び謝罪によって、問題の本質が覆い隠されてしまった。それでいて、自らは偽装した、とは絶対に言わない。社長が何人か辞任したが、本当に悪いのは誰か、責任の所在がはっきりしない。これは学校がイジメを認めないのと同じだ。認めると処罰を受けることになるので、何が悪いのかはっきりさせない。要は、横並びで身を守ろう、というわけだ。【竹内洋・京都大学名誉教授】
 ここ15年間のデフレが、かかる習慣を食品を扱う業者に定着させてしまったのだ。バブルのころは、よりいいものを求める文化があった。それが、どれだけ高級感を出して、値段の手ごろ感を出すか、に移ってしまった。そして、ごまかしとなり、やがて誤表示となり、偽装となっていった。 

□記事「「食材偽装」緊急役員会議」(「週刊現代」2013年11月23日号)
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 【参考】
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【食】消費者へお詫びしない体質 ~多発する食品偽装事件~
【食】中国から輸入している肉エキスの危険性
【食】「肥満の元凶」は小麦 ~ベストセラー『小麦は食べるな!』~
【食】偽装の背景 ~消費増税により偽装が拡大~
【原発】放射能と食の現在 ~福島産の魚、茨城産の栗~
【原発】除染道路の4割が効果なし ~福島県田村市~
【原発】新潟県知事「豹変」の陰に銀行圧力 ~柏崎刈羽原発~
【原発】【食】原子力問題と伝子組み換え(GM)問題の共通点 ~ムラ~
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