漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「卓タク」<たかい・すぐれる>と「悼トウ」

2020年08月05日 | 漢字の音符
 タク・すぐれる  十部
卓姓のマーク

甲骨文字は[漢語古文字形表]が卓の甲骨文字として掲載している。しかし[甲骨文字辞典]はこの字を亡失字としており、「人+取っ手がついた捕獲網(禽)」の会意。捕獲網は狩猟に用いられるが、戦場で敵対勢力を捕らえる場合にも用いられ意味は人名で殷の有力者、だという。因みにこの第2字が中国で卓姓のマーク(香港のネットより)として使われている。これも[漢語古文字形表]が卓の甲骨文字としていることが影響しているものと思われる。戦場で網を用いて捕獲するほどの人物は捕虜として役立つ重要人物だったのであろう。
 私がこの字形を卓の甲骨文字と考える理由は、①卓の音符字に柄のついた網をあやつる動作を表す字が多いこと。②音符字に罩トウ「罒(あみ)+卓(捕獲網)」(魚を捕らえるかご)があり、卓が捕獲網である名残の字があること。③卓の金文の意味は姓であり甲骨文字も人名とされることから、この字は姓として始まったのではないか、と考えられることである。
 以下、字形を金文に進むと、甲骨文で網だった部分が金文では〇または〇に点に変化した。意味は姓氏で「卓林父」という人名に使用されている。篆文になると急に意味が増え、現代に通じる①たかい、②すぐれる、などの意味が出てくる。高い意は柄の長い捕獲網を立てたさまから、すぐれる意は高い意から派生したものであろう。なお、異体字として桌タクがある。これは卓の下方を木に代えた字で、木の足がついた高い机やテーブルの意で用いられ、卓もこれを受けて、テーブル・机の意味がある。
意味 ①すぐれる(卓れる)。抜きんでる。たかい。「卓抜タクバツ」「卓見タッケン」「卓説タクセツ」 (2)つくえ。テーブル。(=桌タク)「食卓ショクタク」「卓球タッキュウ

イメージ 卓の意味である「すぐれる」、甲骨文字の意味から「柄の長い捕獲網」が音符イメージとなる。
 「すぐれる」(卓・綽)
 「柄の長い捕獲網」(棹・掉・悼・罩)
 「形声字」(啅)
音の変化  タク:卓  トウ:掉・悼・棹・罩・啅  シャク:綽

すぐれる
 シャク  糸部
解字 「糸(織物)+卓(すぐれる)」の会意形声。すぐれた織物の衣服の意で、これを着ている人が、ゆったりしているさまをいう。
意味 (1)ゆるやか。ゆったりしたさま。「綽綽シャクシャク」(ゆったりとおちついたさま)「余裕綽綽ヨユウシャクシャク」「綽然シャクゼン」(おちついてゆったりとしたさま) (2)しとやか。「綽約シャクヤク」(姿のしなやかでやさしいさま。芍薬の音を借りた語) (3)婉曲。あからさまでない。「綽名あだな」とは、本名をあからさまに言うのでなく、その人の特徴などによってつけた別の名。愛称。ニックネーム。

柄の長い捕獲網
 トウ・ふるう  扌部
解字 「扌(手)+卓(柄の長い捕獲網)」の会意形声。柄の長い捕獲網を手でふりまわすこと。
意味 ふる。ふるう(掉う)。振り動かす。「掉舌トウゼツ」(舌をふるう。盛んにしゃべること。遊説)「掉頭トウトウ」(頭をふる。否定する動作のさま)「掉尾トウビ」(①尾を振る。②最後の勢いがよい)「掉尾を飾る」(終りに至って勢いのふるい立つ)
 トウ・いたむ  忄部
解字 「忄(心)+卓(=掉。振り動かす)」の会意形声。心が振り動かされる状態をいい、おそれる、かなしむこと。転じて、人の死をいたむ意となる。
意味 (1)おそれる。悲しむ。「悼懼トウク」(悲しみおそれる) (2)いたむ(悼む)。人の死をいたみ悲しむ。「哀悼アイトウ」「追悼ツイトウ」「悼惜トウセキ」(人の死をいたみ、おしむ)
 トウ・さお・さおさす  木部
解字 「木(き)+卓(長い柄)」の会意形声。木の長い柄をいう。船を進めるための「さお」の意となる。
意味 さお(棹)。さおさす(棹す)。かい。「棹郎トウロウ」(棹で船を操る人)「棹歌トウカ」(船頭が唄う歌)  
 トウ  罒部
解字 「罒(あみ)+卓(捕獲網)」の会意形声。卓は補獲網の意であるが、ぬきんでる意となったので、罒(あみ)をつけて元の意味を表した。現在の意味は、魚をとるかごの意味になっている。
意味 (1)魚をとるかご。「罩汕トウサン」(魚とりかごと掬いあみ。また、魚をとること) (2)(魚をとる籠から)こめる。入れて包む。「罩袍トウホウ」(おくるみ。身体をすっぽりと包んだ服) (3)[現代中国]カバー。「口罩コウトウ」(マスク)

形声字
 タク・トウ  口部
解字 「口(くち)+卓(タク)」の形声。タクは豖タク・トクに通じる。タクはものをたたく音の擬声語で、鳥が口ばしで木をつつく音になぞらえる。
意味 (1)ついばむ。(=啄) (2)鳥がさえずる声。さわがしい音の形容。「啅啅トウトウ・タクタク」(鳥がさえずる声)「啅噪トウソウ・タクソウ」(さわがしい声)
<紫色は常用漢字>

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