/4止 「新移民」社会の一部に 立法院、初の議員
毎日新聞2016年1月22日 東京朝刊
日曜日の昼下がり、台北駅構内の広場は、台湾で働くインドネシア人で埋め尽くされていた。故郷の料理を持ち寄り、おしゃべりに花が咲く。広場の一角にインドネシア語の本が50冊ほど並んでいた。書店「燦爛時光(さんらんじこう)」が臨時で開く「移動図書館」だ。台北市の台湾人家庭で高齢者の世話をしているというイチャさん(25)は恋愛小説に夢中になっていた。「インドネシア語の本を読むのは久しぶり」と瞳を輝かせた。
こうした外国人労働者は最低賃金が適用されず、長時間労働が常態化している。先月には台北市内で労働環境改善を訴えるデモが起きており、台湾社会を支える外国人労働者の待遇改善が課題となっている。
台湾は16世紀以降に中国大陸から渡った漢族系の「本省人」や客家(はっか)、1949年に中国での内戦に敗れて台湾に逃れた国民党と共に渡った「外省人」、先住民族で構成されてきた。これに加え、80年代後半から、道路や鉄道などの大型インフラ工事に伴う労働力不足を補うため、東南アジアから労働者を受け入れた。働く女性が増えたため、家庭で高齢者介護を担う働き手も必要になった。人口2349万人の台湾で外国人労働者は55万人に上る。
さらに農村部での「嫁不足」解消のため、90年代から東南アジアの女性を中心に結婚による移民も急増した。こうした「婚姻移民」は「新移民」と呼ばれ、一定の期間を経て参政権を得られるため、社会で無視できない存在となっている。
新移民は90年代以降に渡ってきた中国大陸出身者を含め、50万人に達したと言われる。新移民でベトナム出身の陳瑩真(ちんえいしん)さんは、小6の息子がベトナム語を学ぶ機会が乏しいことに気をもむ。学校で母親の母語を教える授業が増えているものの、週1、2時間に過ぎない。陳さんは「もっと多いといいのに」と漏らす。
新移民の支援に取り組む同書店の張正代表は「かつては新移民の母親がさげすまれることもあり、子供に母親の母語を学ばせない家も多かった。だが、学校での教育などによって子供が『ママは何カ国語も話せてすごい』と感じるようになり、世間の意識も変化している」と指摘する。
こうした社会の変化は選挙にも影響した。国民党は総統選と同時実施の立法院(国会)選挙で比例代表名簿の4位に新移民の代表として、カンボジア出身の林麗蝉(りんれいせん)さん(38)を据え、新移民重視の姿勢を強調した。林さんは、97年に台湾人との結婚で来台し、中部・彰化県で夫や高校生の2人の子供と暮らす。東南アジアからの新移民で初めて当選した林さんは「プレッシャーは大きいが、新移民の福祉政策などに取り組みたい」と熱く語る。
5月に総統に就任する民進党の蔡英文主席は「新移民は台湾の新たな力となり、社会をさらに豊かにしている。新移民はすでに台湾社会の一部だ」と語り、社会の融和と新移民の生活環境の改善を掲げる。インドや東南アジア諸国との関係強化をうたう「新南向政策」でも、新移民を人材として生かそうとしている。多様化する社会の活力は、台湾の将来像を描く鍵となりそうだ。【台北・鈴木玲子】=おわり
http://mainichi.jp/articles/20160122/ddm/007/030/119000c
毎日新聞2016年1月22日 東京朝刊
日曜日の昼下がり、台北駅構内の広場は、台湾で働くインドネシア人で埋め尽くされていた。故郷の料理を持ち寄り、おしゃべりに花が咲く。広場の一角にインドネシア語の本が50冊ほど並んでいた。書店「燦爛時光(さんらんじこう)」が臨時で開く「移動図書館」だ。台北市の台湾人家庭で高齢者の世話をしているというイチャさん(25)は恋愛小説に夢中になっていた。「インドネシア語の本を読むのは久しぶり」と瞳を輝かせた。
こうした外国人労働者は最低賃金が適用されず、長時間労働が常態化している。先月には台北市内で労働環境改善を訴えるデモが起きており、台湾社会を支える外国人労働者の待遇改善が課題となっている。
台湾は16世紀以降に中国大陸から渡った漢族系の「本省人」や客家(はっか)、1949年に中国での内戦に敗れて台湾に逃れた国民党と共に渡った「外省人」、先住民族で構成されてきた。これに加え、80年代後半から、道路や鉄道などの大型インフラ工事に伴う労働力不足を補うため、東南アジアから労働者を受け入れた。働く女性が増えたため、家庭で高齢者介護を担う働き手も必要になった。人口2349万人の台湾で外国人労働者は55万人に上る。
さらに農村部での「嫁不足」解消のため、90年代から東南アジアの女性を中心に結婚による移民も急増した。こうした「婚姻移民」は「新移民」と呼ばれ、一定の期間を経て参政権を得られるため、社会で無視できない存在となっている。
新移民は90年代以降に渡ってきた中国大陸出身者を含め、50万人に達したと言われる。新移民でベトナム出身の陳瑩真(ちんえいしん)さんは、小6の息子がベトナム語を学ぶ機会が乏しいことに気をもむ。学校で母親の母語を教える授業が増えているものの、週1、2時間に過ぎない。陳さんは「もっと多いといいのに」と漏らす。
新移民の支援に取り組む同書店の張正代表は「かつては新移民の母親がさげすまれることもあり、子供に母親の母語を学ばせない家も多かった。だが、学校での教育などによって子供が『ママは何カ国語も話せてすごい』と感じるようになり、世間の意識も変化している」と指摘する。
こうした社会の変化は選挙にも影響した。国民党は総統選と同時実施の立法院(国会)選挙で比例代表名簿の4位に新移民の代表として、カンボジア出身の林麗蝉(りんれいせん)さん(38)を据え、新移民重視の姿勢を強調した。林さんは、97年に台湾人との結婚で来台し、中部・彰化県で夫や高校生の2人の子供と暮らす。東南アジアからの新移民で初めて当選した林さんは「プレッシャーは大きいが、新移民の福祉政策などに取り組みたい」と熱く語る。
5月に総統に就任する民進党の蔡英文主席は「新移民は台湾の新たな力となり、社会をさらに豊かにしている。新移民はすでに台湾社会の一部だ」と語り、社会の融和と新移民の生活環境の改善を掲げる。インドや東南アジア諸国との関係強化をうたう「新南向政策」でも、新移民を人材として生かそうとしている。多様化する社会の活力は、台湾の将来像を描く鍵となりそうだ。【台北・鈴木玲子】=おわり
http://mainichi.jp/articles/20160122/ddm/007/030/119000c