北海道新聞 04/13 05:00
五七五の十七音で心の動きや風景の美しさを表現する俳句。場所を選ばず1人で創作でき、俳句のペンネーム「俳号」を使えばいつもと違う自分にもなれる。孤独を癒やしてくれるほか、心のデトックス効果もあるようだ。
3月下旬の昼下がり、俳句を趣味とする札幌市の村上海斗さん(22)が、市内の中島公園で1句詠む。
ぶらんこから飛んで地球は少し狭し
村上さんは北海学園大を卒業し4月から道内企業に就職した。「これから飛び出していく社会が狭く感じるような、大きな人間になりたい」と、高ぶる気持ちを作品に込めた。
俳句を始めたのは高校の文芸部。大学では無理に交友関係を広げず、「むしろ孤独を俳句にぶつけてきた」と言う。短い言葉で自分の世界を編み出せることに魅力を感じ、日常のささやかな発見を作品にしてきた。仕事の傍らこれからも続けていくつもりだ。
俳号はオンとオフを切り替える装置にもなる。
後志管内共和町で暮らす薬剤師の男性(51)は、天田牽牛子(あまだけんごし)という俳号で活動する。仕事一色の日々に疑問を感じて30年ほど前に俳句を始めた。
運転中に創作することが多く、視界に入る景色の鮮やかさを作品に取り込む。
夕東風(ゆうこち)や牧(まき)の起伏を金色(こんじき)に
この句は、近隣の温泉へ向かう道中、雪をかぶった牧場に当たる夕日を表現した。「俳句があれば仕事中の自分とは別人になれる。創作に没頭し、仕事のストレスも忘れられます」
悲しみや苦しみを表現できるのも俳句だ。
札幌近郊の建築士の女性(57)は、熱中症で昨年急逝した夫=享年57=を俳句にしたためた。
青栗やをとこ爪先から昏(く)るる
搬送先の病院で「爪先が寒い」と訴えた夫の最期を表現し、「青栗」に50代の若さで亡くなったことを重ねた。
女性が俳句を始めたのは10年前、知人に誘われ著名な俳人の吟行(ぎんこう)に参加したのがきっかけだ。五感をフル稼働させて言葉を組み立てる作業に魅了された。
句会では俳号・青山酔鳴(すいめい)を名乗る。関心のある北海道の歴史やアイヌ文化、動物や苦手な昆虫などを調べては、句材の幅を広げてきた。そのなかでも「俳句の効能」を感じたのが追悼句の創作という。
「風のみを釣る父の日の考(ちち)の竿(さお)」は太公望だった亡父を詠んだ。女性は「俳句がなければ、故人を漠然と思い出す程度だったでしょう。言葉にすることで故人を悼む気持ちを客観視することもできる」と話す。
俳句は基本的には1人で作るが、句会で作品を発表し互いに評し合って勉強したり、楽しんだりする側面もある。その句会はコロナ禍で以前のようには開けなくなっている。
札幌の俳人・五十嵐秀彦さん(65)=俳句集団「itak(イタック)」代表=は「句会で好まれる作品を作りがちな人もいるが、自分に向き合い、自分にしかできない句を作る好機」とした上で、「どんな時でも作ることができるのが俳句。言葉に少しでも関心があれば、始めてみるといいですよ」と話している。(上田貴子)
◇
コロナ下をみなさんどのようにお過ごしですか。1人の時間に感じたことや新たに始めたことなど実践例を「ソロのじかん」取材班へお寄せください。ご意見も募集します。
〒060・8711(住所不要) 北海道新聞くらし報道部
ファクス 011・210・5607
メール kurashi@hokkaido-np.co.jp
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/532325
五七五の十七音で心の動きや風景の美しさを表現する俳句。場所を選ばず1人で創作でき、俳句のペンネーム「俳号」を使えばいつもと違う自分にもなれる。孤独を癒やしてくれるほか、心のデトックス効果もあるようだ。
3月下旬の昼下がり、俳句を趣味とする札幌市の村上海斗さん(22)が、市内の中島公園で1句詠む。
ぶらんこから飛んで地球は少し狭し
村上さんは北海学園大を卒業し4月から道内企業に就職した。「これから飛び出していく社会が狭く感じるような、大きな人間になりたい」と、高ぶる気持ちを作品に込めた。
俳句を始めたのは高校の文芸部。大学では無理に交友関係を広げず、「むしろ孤独を俳句にぶつけてきた」と言う。短い言葉で自分の世界を編み出せることに魅力を感じ、日常のささやかな発見を作品にしてきた。仕事の傍らこれからも続けていくつもりだ。
俳号はオンとオフを切り替える装置にもなる。
後志管内共和町で暮らす薬剤師の男性(51)は、天田牽牛子(あまだけんごし)という俳号で活動する。仕事一色の日々に疑問を感じて30年ほど前に俳句を始めた。
運転中に創作することが多く、視界に入る景色の鮮やかさを作品に取り込む。
夕東風(ゆうこち)や牧(まき)の起伏を金色(こんじき)に
この句は、近隣の温泉へ向かう道中、雪をかぶった牧場に当たる夕日を表現した。「俳句があれば仕事中の自分とは別人になれる。創作に没頭し、仕事のストレスも忘れられます」
悲しみや苦しみを表現できるのも俳句だ。
札幌近郊の建築士の女性(57)は、熱中症で昨年急逝した夫=享年57=を俳句にしたためた。
青栗やをとこ爪先から昏(く)るる
搬送先の病院で「爪先が寒い」と訴えた夫の最期を表現し、「青栗」に50代の若さで亡くなったことを重ねた。
女性が俳句を始めたのは10年前、知人に誘われ著名な俳人の吟行(ぎんこう)に参加したのがきっかけだ。五感をフル稼働させて言葉を組み立てる作業に魅了された。
句会では俳号・青山酔鳴(すいめい)を名乗る。関心のある北海道の歴史やアイヌ文化、動物や苦手な昆虫などを調べては、句材の幅を広げてきた。そのなかでも「俳句の効能」を感じたのが追悼句の創作という。
「風のみを釣る父の日の考(ちち)の竿(さお)」は太公望だった亡父を詠んだ。女性は「俳句がなければ、故人を漠然と思い出す程度だったでしょう。言葉にすることで故人を悼む気持ちを客観視することもできる」と話す。
俳句は基本的には1人で作るが、句会で作品を発表し互いに評し合って勉強したり、楽しんだりする側面もある。その句会はコロナ禍で以前のようには開けなくなっている。
札幌の俳人・五十嵐秀彦さん(65)=俳句集団「itak(イタック)」代表=は「句会で好まれる作品を作りがちな人もいるが、自分に向き合い、自分にしかできない句を作る好機」とした上で、「どんな時でも作ることができるのが俳句。言葉に少しでも関心があれば、始めてみるといいですよ」と話している。(上田貴子)
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コロナ下をみなさんどのようにお過ごしですか。1人の時間に感じたことや新たに始めたことなど実践例を「ソロのじかん」取材班へお寄せください。ご意見も募集します。
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メール kurashi@hokkaido-np.co.jp
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