毎日新聞 2021/4/18 10:00(最終更新 4/18 10:00)
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アイヌ民族の民話や古謡を題材とした歌劇「オキクルミと悪魔」が、30年以上にわたって群馬県内各地の保育園で演じられている。園児たちが歌劇を通して楽しみながらアイヌ文化に触れ、保育士も子どもたちに教えることで理解を深めている。アイヌ民族を先住民族と明記したアイヌ施策推進法(アイヌ新法)の成立から19日で2年。群馬の保育園での取り組みは、北海道外にアイヌ文化を伝承する際のヒントを与える。
「子どもたちにとってアイヌ民族の人々は憧れの存在。心から劇を楽しんでいるようです」。群馬保育問題研究会会長で保育士の大野ゆう子さんは、そう語る。大野さんが勤務する高崎市の「おひさま飯塚保育園」には、園児たちが描いたオキクルミと悪魔の場面の絵が飾られていた。
オキクルミと悪魔は、アイヌ民族に生活文化を教えた神とされるオキクルミが、悪魔とその手下の大食いクマやアメマスと戦う物語。アイヌ語の歌や古式舞踊が織り込まれ、子どもたちは演じるうちに言葉や踊り、模様、さらにアイヌ民族の世界観などに触れる。
大野さんによると、この歌劇を作曲した丸山亜季さん(故人)が群馬在住で、地元の音楽教育に尽力する中で各保育園に広がった。現在も、少なくとも15の保育園で卒園式シーズンなどに演じられている。
大野さんら県内の保育士は、7年前に北海道帯広市を訪れ、アイヌ民族の男性からアイヌ古式舞踊の指導を受け、現地で上演も行った。大野さんは「保育士だけでなく、子どもにアイヌ刺しゅうを施したマタンプシ(アイヌ民族の鉢巻き)を作る保護者もアイヌ文化と向き合うことになるのです」と話す。
人口の19%がブラジル人などの外国人で「多文化共生」を掲げる同県大泉町では、町立の3保育園がオキクルミと悪魔を演じ続けている。当初、保育士らの関心は歌劇のための踊りや歌だけだったが、次第にトンコリ(弦楽器)やムックリ(口琴)などのアイヌ音楽や食文化などにも広がっていった。
2018年からは毎年2月に3保育園が合同で「冬のつどい アイヌまつり」を開催。オキクルミと悪魔の上演のほか、アイヌ料理「チェプオハウ」(汁物)を振る舞い、アイヌ文化を町民らに伝えている。毎年続けてきたが、今年は新型コロナウイルス感染拡大の影響で合同ではできなかった。ただ、途切れさせることなく各保育園がそれぞれで実施した。
3保育園はアイヌ民族の講師の派遣を受け、アイヌ文化を学んでいる。大泉町立北保育園の村田真弓園長は「アイヌ民族でない私たちは本物にはなれないかもしれません。でも、子どもたちにはできる限り、本物に近づけたものを見せてあげたいと思う」と語る。
県内の保育園の取り組みについて、アイヌ文化の担い手を育てる札幌大学ウレシパ(アイヌ語で育て合いの意味)クラブの代表で、同大アイヌ文化教育研究センター長の本田優子教授は「群馬の取り組みは、日本でのアイヌ民族理解に大きな影響を与えると思う。ウレシパクラブでも、アイヌ民族の若者とともにアイヌではない学生が一緒に歌や舞踊を練習するが、アイヌ文化の大切な部分を感じ取り、共有している」と話している。【庄司哲也】
https://mainichi.jp/articles/20210417/k00/00m/040/004000c
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アイヌ民族の民話や古謡を題材とした歌劇「オキクルミと悪魔」が、30年以上にわたって群馬県内各地の保育園で演じられている。園児たちが歌劇を通して楽しみながらアイヌ文化に触れ、保育士も子どもたちに教えることで理解を深めている。アイヌ民族を先住民族と明記したアイヌ施策推進法(アイヌ新法)の成立から19日で2年。群馬の保育園での取り組みは、北海道外にアイヌ文化を伝承する際のヒントを与える。
「子どもたちにとってアイヌ民族の人々は憧れの存在。心から劇を楽しんでいるようです」。群馬保育問題研究会会長で保育士の大野ゆう子さんは、そう語る。大野さんが勤務する高崎市の「おひさま飯塚保育園」には、園児たちが描いたオキクルミと悪魔の場面の絵が飾られていた。
オキクルミと悪魔は、アイヌ民族に生活文化を教えた神とされるオキクルミが、悪魔とその手下の大食いクマやアメマスと戦う物語。アイヌ語の歌や古式舞踊が織り込まれ、子どもたちは演じるうちに言葉や踊り、模様、さらにアイヌ民族の世界観などに触れる。
大野さんによると、この歌劇を作曲した丸山亜季さん(故人)が群馬在住で、地元の音楽教育に尽力する中で各保育園に広がった。現在も、少なくとも15の保育園で卒園式シーズンなどに演じられている。
大野さんら県内の保育士は、7年前に北海道帯広市を訪れ、アイヌ民族の男性からアイヌ古式舞踊の指導を受け、現地で上演も行った。大野さんは「保育士だけでなく、子どもにアイヌ刺しゅうを施したマタンプシ(アイヌ民族の鉢巻き)を作る保護者もアイヌ文化と向き合うことになるのです」と話す。
人口の19%がブラジル人などの外国人で「多文化共生」を掲げる同県大泉町では、町立の3保育園がオキクルミと悪魔を演じ続けている。当初、保育士らの関心は歌劇のための踊りや歌だけだったが、次第にトンコリ(弦楽器)やムックリ(口琴)などのアイヌ音楽や食文化などにも広がっていった。
2018年からは毎年2月に3保育園が合同で「冬のつどい アイヌまつり」を開催。オキクルミと悪魔の上演のほか、アイヌ料理「チェプオハウ」(汁物)を振る舞い、アイヌ文化を町民らに伝えている。毎年続けてきたが、今年は新型コロナウイルス感染拡大の影響で合同ではできなかった。ただ、途切れさせることなく各保育園がそれぞれで実施した。
3保育園はアイヌ民族の講師の派遣を受け、アイヌ文化を学んでいる。大泉町立北保育園の村田真弓園長は「アイヌ民族でない私たちは本物にはなれないかもしれません。でも、子どもたちにはできる限り、本物に近づけたものを見せてあげたいと思う」と語る。
県内の保育園の取り組みについて、アイヌ文化の担い手を育てる札幌大学ウレシパ(アイヌ語で育て合いの意味)クラブの代表で、同大アイヌ文化教育研究センター長の本田優子教授は「群馬の取り組みは、日本でのアイヌ民族理解に大きな影響を与えると思う。ウレシパクラブでも、アイヌ民族の若者とともにアイヌではない学生が一緒に歌や舞踊を練習するが、アイヌ文化の大切な部分を感じ取り、共有している」と話している。【庄司哲也】
https://mainichi.jp/articles/20210417/k00/00m/040/004000c