日刊ゲンダイ 2025.03.10
尾崎 俊介愛知教育大学教授
学期末や卒業前になると噴出する「レポート・論文ってどう書いたらいいんだろう」という疑問――。
テーマをどう選べばいいか、なぜ文章が書き出せないのか、良い論文と悪い論文の決定的な違いとは、絶対やっちゃダメなこととは……新刊『ゼロから始める 無敵のレポート・論文術』では、指導経験豊富な大学教授が「極意」を書き尽くしている。
※本記事は尾崎俊介『ゼロから始める 無敵のレポート・論文術』から抜粋・編集したものです。
「インディアン・カジノ問題」とは?
ゼミ生の卒論の中から論争型論文の例を紹介しましょう。そのゼミ生が取り上げたのは「インディアン・カジノ問題」でした。
1988年、「IGRA法(Indian Gaming Regulatory Act)」なる法律がアメリカ連邦議会を通過します。これはアメリカ先住民(俗にいう「アメリカ・インディアン」のこと。ただし「インディアン」という呼称は現在では差別語とされている)の諸部族にカジノを経営することを特定の規制の下で許可する、という法律なんですが、これも先に述べたバッキ事件(参照:「逆差別ではないか」…50年前の事件が問いかける人種差別問題の「根深すぎる実態」)と同じく、アメリカが犯してきた過去の罪のツケをどこで清算するか、という問題に関わる側面を持っていました。
ご存じのように、アメリカという国には、もともとこの地に住んでいたアメリカ先住民の土地を奪取し、彼らの生活の糧を奪うことで国として発展してきた歴史があります。その結果、アメリカ先住民諸部族は、形式的には外交権すら持つ「国家内独立国家」としての位置づけを与えられつつ、その実、見るべき産業も育たない不毛な土地に押し込められ、低レベルの暮らしを強いられた状態になっている。
では、そんなアメリカ先住民の人々の生活レベルを手っとり早く上げるにはどうすればいいかを考えていく中で出てきたのが、IGRA法のベースとなったアイディア、すなわち、彼らにカジノを経営させ、そこからの収益を活用させてはどうか、というアイディアです。
カジノを中心に一大観光産業を興せば雇用も増大し、今まで安定した給与所得のなかったアメリカ先住民の貧困層の救済にも役立ちますし、またラスベガスの成功を見ればわかるとおり、カジノというのは、砂漠の真ん中に作ったとしても相当な集客力がありますから、その意味でもアメリカ先住民が多く住んでいるアメリカ西部の砂漠地帯に興す産業としてはうってつけなんですね。
ところが、こんなに優れたIGRA法にも問題点がないわけではなかった。・・・・・