先日(4月29日)、我が家に試聴に来ていただいたSさんからメールが届いた。Sさんのご自宅は福岡だが、現在、東京に単身赴任中。
「5月末に福岡に帰省する予定です。6月1日(土)は、ずっと在宅していますから試聴にお見えになりませんか。」
毎日が日曜日の自分にとっては、予定がつかない日はないが、ましてやオーディオのこととなると最優先。問題はKさんのご都合である。ちなみに3人の共通項はSPユニット「AXIOM80」の愛好者であること。
すぐに携帯で連絡をとってみると「SさんのPP5/400(真空管)とタンノイのモニター・シルバーを是非一度聴いてみたいと念願していたところです。日程の方は何とかします。」と、一つ返事ですんなり決定。Sさんは「AXIOM80」のほかにタンノイ・コーナー・ヨーク(ユニットはモニター・シルバー)を鳴らしておられる。
待ちに待った当日は梅雨の真っ只中とあって、朝から小雨模様だったが9時過ぎに自宅を出発。福岡県内に入って間もないサービスエリアで、予定どおりKさんと合流。時間があったのでコーヒーを飲みながらしばらくオーディオ談義。
印象に残った話がある。
Kさん曰く「“いい音”と“好きな音”はきちんと分けています。これまで、いろんなところで“いい音”を聴いてきましたが、“いい音だけど、この音は要らん”と即座に捨ててきました。あくまでも本命のスピーカーはAXIOM80だけです。これをうまく鳴らすためにアンプだけは随分欲張ってきました。」
Kさんが12台もの真空管アンプを保有されているのも「AXIOM80をうまく鳴らすため」というのが分かっているので、今さら驚く話ではないが、よく考えてみるとこれは非常に倫理観に富んだ話のような気がしてきた。
「いい音」に出会うたびに見境もなく食いつくのでは身がいくつあっても足りないので、どこかで線引きをしなければいけないのは自明の理。たった一つのスピーカーをずっと大切にする。たとえて言えば、「どんな美人に出会っても自分の奥さんが一番いい」というようなものかな。とかく惚れっぽい誰かさんとは大違い(笑)。
頃合いになったのでサービスエリアを出発し、Kさんのベンツで一路Sさん宅へ。Kさんによると仕事柄、福岡と宮崎を何度も往復されるそうだが、高速でスピードを上げての長時間走行のときに安定性(乗り疲れ)の面で国産車との違いがはっきり出るそうだ。たしかに実感!
福岡市内に入っても想像したほど混んでなくて、予定の13時過ぎが早まって12時40分ぐらいに到着。
福岡の中心部に近いのに閑静な住宅地として知られているところ。Sさん宅は3年ぶりでこれが2度目である。これまでかなりのオーディオマニアを知っているが、Sさんは“こだわり”という点では最上級の部類に入る方である。
とにかく、持ち物が凄くて滅多に手に入らないものばかり!
まずアンプ。
イギリスのBBC放送がらみの技術者だったベテラン(故人)が製作したもので、欧州の真空管アンプコンテストでグランプリをとった逸品。世界で2セットしか存在しておらず、もう1セットは韓国人が保有しているとのこと。
そして、使っている真空管はエジソン・マツダの「PP5/400」。
欧州の名三極管としてWE300Bと並び称されている「PX25」の中でも最高峰とされている真空管である。アンプの重さは1台で30キロ近い。トランスはパートリッジ(イギリス)。
以下、次回へと続く。