「音楽&オーディオ」の小部屋

クラシック・オーディオ歴40年以上・・身の回りの出来事を織り交ぜて書き記したブログです。

上質のミステリー

2013年06月22日 | 読書コーナー

去る12日に4か所の図書館から借りてきた25冊の本の返却期限があと1週間後に迫ってきた。現在11冊を読了したが、もっとピッチを上げねば。

先週の14日からの福岡行きにも片道2時間の電車の中で読もうと、本命の1冊を携行した。それは「切り裂きジャックの告白」(平成25年4月30日:中山 七里)

                   

いやあ、久しぶりに上質のミステリーを読ませてもらった。行きの電車の時間内では読み切れなかったので、娘のマンションに着いても、会話もそこそこにずっと読み耽る始末。

娘に「お父さん、久しぶりに会ったのに私とミステリーのいったいどちらが大切なの!」と、淋しい思いをさせてしまったようだ(笑)。

「切り裂きジャック」とはご存知の方も多いと思うが、1888年ロンドンの下町で2か月間にわたって売春婦5人がバラバラにされた猟奇事件の犯人の呼称で、未解決の事件としていまだに犯人像の絞り込みが喧(かまびす)しい。

本書の犯人像もこの猟奇事件をなぞったもので、はじめから終わりまで一気に読ませる力を持っている。ポイントを挙げると、

 事件の猟奇性(3名を殺した上に内臓をすっかり取り去る残虐性)

 読者を惹きつけるテンポの良さとリズム感


 殺人の動機と犯人の意外性、そしてどんでん返し

 臓器移植という社会問題の提起

難を言えば、全体的に人物の造形に薄いところがあるので重量感にやや乏しいこと、後半の畳み込むような盛り上がりにちょっと欠けるといった面もあるが、それは欲張りというものだろう。ミステリーなのでこれ以上の詳述は“ご法度”だが、ご一読されても時間の無駄にはならないことを保証する。

それにしても、「中山七里」(なかやま しちり:1969~)はまだデヴューして日も浅いのになかなかの才能の持ち主。遅咲きのようだが、今後「東野圭吾」と肩を並べる可能性も無きにしも非ず。

花園大学文学部国文科卒という、あまりパッとしない学歴だが、あの川瀬七緒(「よろずのことに気をつけよ」で江戸川乱歩賞受賞)だって文化服装学院卒だから、総じて文才と学歴はあまり関係ないみたいだ。全科目の点数を万遍なく得点できないと一流大学に入れない仕組み(共通一次試験など)が、良きにつけ悪しきにつけこんなところにも表れている(笑)。

さて、そういうわけで早くも福岡滞在1日目で、「切り裂きジャックの告白」を読んでしまい、手持無沙汰になったので、つい娘の書棚に目がいって拝借したのが「真夏の方程式」(2013年5月10日:東野圭吾)。

これがまたメチャ面白い。あまりの出来栄えに、半分程度読みかけた状態のまま「ガリレオ・シリーズ」を娘の書棚からあるだけ借りて別府に持ち帰って読むことにした。

              

結局、帰りの電車の中で読了した「真夏の方程式」の背表紙にある「紹介文」を引用すると、

「夏休みを玻璃(はり)ヶ浦にある伯母一家経営の旅館で過ごすことになった少年・恭平。一方仕事で訪れた湯川(探偵役)も、その宿に宿泊することになった。翌朝、もう一人の宿泊客が死体で見つかった。その客は元刑事で、かって玻璃ヶ浦に縁のある男を逮捕したことがあったという。これは、事故か、殺人か。湯川が気付いてしまった真相とはー。」

名前の付いた登場人物が何らかの形ですべて事件に絡むという珍しい小説で、それだけに全編にわたってまったく無駄な箇所がない。意味深い伏線が至る所に張ってあり、根っからの悪人が登場しないのも面白い。

子供の自然で素直な目から見た身勝手な大人の世界が浮き彫りにされ、何も知らないままに犯罪の片棒を担がされていたというラストの虚しさが強く印象に残る。

ところで、タイトルの「真夏の方程式」の由来がどうもよく分からない。

真夏の美しい澄み切った海が舞台となっており、夏ならではの遊びが重要な意味を持っているので「真夏」の意味は分かるが、「方程式」の意味が「?」。

こういう時にネットは便利である。それなりの解説があった。

『背表紙の紹介文にもあるように、この小説には柄崎恭平という少年がキーパーソンとして登場してくるわけだが、簡単に言えば、「恭平少年が今後の人生において自らが解決しなければならない課題」というのを「方程式」という言葉で表したと解釈することができます。 

それは、最後にガリレオ湯川が「この世界には、現代科学では解けない謎がいくつもある。・・・」と恭平少年に語りかけた言葉からも明らかです。 

さて、この恭平少年が抱えることになった「方程式」は何であったのか?それは、なぜ「今後の人生において解決すべき課題」とガリレオ湯川は判断したのか?それを読み解いていくのがこの小説の見どころであろう。」

方程式とは平たく言えば、未知数「X」の解を等式に置き換えて求めることだが、否応なく「殺人事件の真相 = 自分の行為」の関連性に気付いた少年が自己の成長に伴ってどのようにその記憶を消化していくのか、それを未知数「X」になぞらえた方程式ということだろうか?

本書は映画化されて、来たる6月29日公開(全国東宝系)とのことだが、以前の「ダヴィンチ・コード」で懲りていたので、映画を観る前に原作が読めてよかった。と、いってもわざわざ映画館に足を運ぶことはないので後日のテレビ放映で観るときの話。

それはともかく、今回読了した「切り裂きジャックの告白」や「真夏の方程式」といい、いずれも完成度の高い傑作で久しぶりにミステリーを堪能できた。


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