出たぁ~っっっ!こっ、これは季節遅れの怪奇現象か?はたまた楽器に憑依した怪(あやかし)の姿かぁぁぁぁっ?!Σ((゜Д゜ll))
…って、そんなわきゃあありません。実はこれは私のヴィオラ・ダモーレの最頂部についている飾り掘りです(^-^;)。古楽器には時に、実用とはあまり関係ない装飾が施されていることがあります。で、特にヴィオラ・ダモーレによくついているのが、目隠ししたキューピッドや女性の頭部です。
あと余談ですが、ヴィオラ・ダ・ガンバや一部ヴァイオリン属なんかにもあるものとして獅子頭があります。普通ヴァイオリン属はデザインがほぼ決まっていて、通常糸倉の上にはスクロールと呼ばれる渦巻き状の飾り掘りが施されるのが一般的ですが、極たまに獅子頭が遇われているものもあります(私の知り合いのチェリストが所有しているチェロは獅子頭でした)。その辺りは、作家の遊び心と言ったところでしょうか。
何でこんな飾りをつけるのかについては諸説あるようですが、一つには悪魔除けとも言われています。キリスト教社会では悪魔の存在がリアルに信じられていて、人が病気になったり気がふれたりするのは悪魔の仕業だと恐れていました。また、人智を越えた美しいものを作り出したり、超絶技巧を会得した人に対して「アイツはきっと悪魔に魂を売ったに違いない」と陰口を叩いたりもしました。
また、これは特に弦楽器に関して言われることが多いのですが、いとも妙なる音色を出す楽器には、人の心を惑わす悪魔が住み着いている…などということも本気で信じていたようです。
そんな中にあって人々は、いかにして魔を払うか…ということにいろいろな工夫をこらしました。その一つがヒトガタ、つまり人形的なものを作って、そちらに代わりにとりついてもらおうというものでした。ヨーロッパでビスクドール等、やたらリアルな人形が発達したのには、そう言った社会背景も一端としてあったようです。
これは別にヨーロッパ社会に限ったことではありません。日本でも、各地に残る流し雛(ながしびな)等も同じ発想ですし、昔は出産時には妊婦の傍らに天児(あまがつ)という、てるてる坊主に手足が生えたみたいな簡単な作りの人形を置いて、妊婦や赤子に邪気がとりつくのを防いだと言います。
で、そう言った意味で楽器にヒトガタをつけることによって、どうせ悪魔に憑かれるなら奏者にではなく楽器についてもらって、妙なる音色を響かせてもらおう…という意味合いが、この装飾にはあるようです(話長かったなオイ…)。
ただ、キューピッドの場合には、やたらめったらそこら中に愛を振り撒かれても困るので、目隠しをしてしまった…ということのようです(因みに獅子頭の場合はこれ等とは全く違う考え方で完全に『魔除け』です)。
一見機能とは無関係なものを敢えて取り入れることによって、それが何とも上品な優美さに変わる…デザインの力って素晴らしいです。