今日は全校が5時間授業だったので、いつもより早くに帰宅しました。そして、昨日に引き続き今日も家の整理をしております。
改めて整理してみると、自分でも
「こんなにあったの?!」
と思うくらいの大量のCDが出てきて、正直驚いています…。
そんな状態ですから、中には存在をすっかり忘れていたCDが出てきたりします。その中にあったのが
アルペジオーネのための作品群のものです。
『アルペジオーネ』といっても聞き馴染みが無いと思いますが、これはかつてウィーンで活躍していた楽器製作者のヨハン・ゲオルク・シュタウファー(1778〜1853)によって1823年に新たに世に送り出された弦楽器の名前です。
全体はこんなフォルムをしていて弦は6本あり、調弦はギターと全く同じで、指板にはギター同様フレットがあります。これをギターのように爪弾くのではなく、チェロのように弓で弾きます。
発表当時はボウゲンギターレ(弓で弾くギター)とかチェロギターとかギターレ・ダモーレなどとも呼ばれていて、専用の教則本も出版されたりもしていました。シュタウファーもこの新作楽器の普及を図るべく、現在ではピアノ教則本作家として有名なフリードリヒ・ブルグミュラー(1806〜1874)をはじめとした様々な作曲家にアルペジオーネのための新曲を依頼しました。その中のひとりがフランツ・ペーター・シューベルト(1797〜1828)です。
シューベルトはシュタウファーからの依頼に応えて、新作楽器とピアノとによるソナタを書き上げました。それが、シューベルトの室内楽作品のひとつとして有名になった《アルペジオーネ・ソナタ イ短調》です。
アルペジオーネという楽器が絶えてしまった現在、この曲は様々な楽器で代奏されます。圧倒的に多いのは音域と大きさがほぼ同じチェロですが、私が弾いているヴィオラやコントラバスで演奏されることもあります。音域と音色がこの曲の渋い曲調にそぐわないためか、ヴァイオリンで弾かれることは殆どありません。
ただ、いずれの場合でもシューベルトが書いた通りに演奏することはできません。
何しろ、弦が6本あるアルペジオーネと4本しかないチェロとでは、特に弦を指ではじくピッチカートで違いが出てしまいますし、調弦も違いますからアルペジオーネでは問題無いところでもチェロで弾くには無理があるところもあります。なので、コード進行や繋がりに問題の出ない範囲でアレンジを加えることによって、どうにか演奏しているわけです。
残念ながらアルペジオーネという楽器は、その奏法の煩雑さやチューニングの不安定さ等から事実上の失敗作と見なされ、遂に世に普及することはありませんでした。こういう衰退した楽器というものは歴史の波間に消えていく運命を辿ることになるのですが、アルペジオーネは奇しくもシューベルトという天才が残してくれたこの名曲の存在をもって、その名を…というか、その名のみを残すことができたのは皮肉というか何というか…。
上のCDは、その幻のアルペジオーネを現代の楽器製作者たちが復元したものを使って演奏しているものです。実際に聴いてみると、ちょっと独特な音色と圧倒的に豊かなピッチカートはさすがです。
ということで、今日はその復元アルペジオーネで演奏している正真正銘《アルペジオーネ・ソナタ》をお楽しみ頂きたいと思います。CDでも演奏しているニコラ・ドゥルターユの独奏で、シューベルトが想定していたであろう世界観をお楽しみください。