昨日のことなのですが、光悦展の後に行ったもう一つの展覧会のことを書こうと思います。現在、東京国立博物館本館では
特別展《中尊寺金色堂》が開催されています。
この特別展は、
上棟の記録の残る天治元年(1124)を建立年ととらえて、中尊寺金色堂の建立900年を記念して開催するものです。
堂内中央に設置された須弥壇に安置される国宝の仏像11体が一堂にそろうほか、かつて金色堂を荘厳(しょうごん)していた
国宝・金銅迦陵頻伽文華鬘(こんどうかりょうびんがもんけまん)をはじめとする、まばゆいばかりの工芸品の数々を紹介しています。
現在、中尊寺金色堂は
覆堂(おおいどう)という建物にスッポリと覆われた中の、ガラス張りの向こう側にあります。当然のことながら仏像群を近くで拝観することは不可能ですが、今回は
藤原清衡の遺体が安置されている金色堂中央須弥壇上の国宝仏を間近に、しかも
普段は絶対に観ることのできない背面まで360度観ることができるように展示されています。
会場に入ると、
黄金に輝く金色堂を8KCGの技術を用い原寸大で再現しています。かなり迫力満点の画像でしたが、私が不慣れなのか画像が動くとちょっと酔いそうになって大変でした…。
その映像の裏側にまわると、
金色堂中央須弥壇上の仏像たちが姿を現します。会場の中央には阿弥陀三尊像が、光背を外したかたちで展示されています。
阿弥陀三尊像(あみださんぞんぞう)
(中央)国宝 阿弥陀如来坐像(あみだにょらいざぞう)
(右)国宝 観音菩薩立像(かんのんぼさつりゅうぞう)
(左)国宝 勢至菩薩立像(せいしぼさつりゅうぞう)
平安時代・12世紀 岩手・中尊寺金色院蔵
腹前で定印(じょういん)を結ぶ阿弥陀如来坐像を中心に、前方左右に観音菩薩立像と勢至菩薩立像が並ぶ全身皆金色(かいこんじき)の三尊で、ふっくらとした頬を持つ穏やかで優美な表現が特徴です。金色堂内の3つの須弥壇上の諸仏像は長い歴史の中で安置場所が入れ替わっていると考えられていますが、この三尊像は当初より清衡が眠る中央壇に安置されていた可能性が高いとされます。
清衡が創建した時の像であるならば、『尊容満月の如し』と称えられた定朝(生年不明〜1057)の流れをくむような当時の京の一流仏師による像と遜色のない仏像が奥州に伝えられていたことになります。奥州藤原氏によって築かれた平泉の文化水準の高さをうかがい知ることができる、貴重な作例です。
きりりとした阿弥陀如来坐像の眼差しには、思わず引き込まれます。脇侍の観音勢至両菩薩は阿弥陀如来坐像と同じ時代の作のはずですが、阿弥陀如来坐像と比べると甘美な顔つきをしていて、もしかすると少し時代が下るのではないかとも思えてきます。
阿弥陀三尊像の両脇には
阿弥陀三尊の両脇に3体ずつ安置される6体の地蔵菩薩立像が展示されています。阿弥陀三尊と六地蔵のセットは、六道輪廻(ろくどうりんね)からの救済を願う当時の往生思想を体現したものと考えられます。
頬がやや引き締まっていること頭部がやや小ぶりに作られていることから、阿弥陀三尊像よりも後の時代に作られたようで、造像当初に置かれていた壇から移動している可能性があります。この展覧会では、現在中央壇に安置されている状況と同じように3体ずつ展示されています。
その前には四天王のうち
増長天立像と
持国天立像(平安時代・12世紀 国宝)が展示されています。大きく腰をひねって手を振り上げる躍動感にあふれた二天像は、引き締まった面貌と大きく翻る袖の表現が見どころです。
こうした激しい動きの表現は、のちに慶派仏師が得意とする鎌倉様式を先取りしたような先駆的感覚が奥州の仏像にみられることを示しています。西北壇・西南壇に安置されている二天像と比べても、動きの表現は際立っています。
この他には
紺紙金銀字一切経(こんしきんぎんじいっさいきょう 平安時代・12世紀 岩手・中尊寺大長寿院蔵)が展示されています。金泥字(きんでいじ)と銀泥字(ぎんでいじ)で一行おきに書写し、見返しにも金銀泥を用いて経意を絵画で表現した唯一無二の一切経で、『中尊寺経』の名で知られます。
使われている料紙は京の都で調達したことが確実視され、見返し絵も当時一流の絵師が担当したと考えられています。藤原清衡が8年の歳月をかけて制作させた入念の一切経で、かつては金色堂手前の経蔵に安置されていました。
そして、金光明最勝王経金字宝塔曼荼羅(こんこうみょうさいしょうおうきょうきんじほうとうまんだら)も出品されていました。これは
最頂部の水煙(すいえん)から屋根、組物、初重の扉、基壇の欄干から階段にいたるまで、全て経文の文字を使って九重の宝塔を描いたもので、その意匠の細かさには度肝を抜かれます。
他には
金銅迦陵頻伽文華鬘(こんどうかりょうびんがもんけまん 平安時代・12世紀
国宝)も展示されていました。華鬘とは仏殿の柱や梁を装飾するもので、金銅の薄板に唐草や天上世界にいるという人面鳥身の迦陵頻伽の優美な姿が切り出されています。
因みに、この華鬘の迦陵頻伽はかつて
120円切手のデザインになったこともあります。なので、特に切手蒐集家や昭和世代の方には見覚えがあるかも知れません。
展示スペースの最後には、1962年から行われた昭和の大修理に際して制作された実物の5分の1サイズの金色堂の模型が展示されていました。こちらは撮影OKとのことでしたので、
私も撮影してきました。
板葺の屋根にまで金が施された模型は実にきらびやかで、
隅々までいつまでも眺めていたくなります。屋根の後ろは
組物が見えるようになっていて、扉の中を覗くと
須弥壇の螺鈿細工まで精巧に再現されています。
私はかつて一度だけ中尊寺に行ったことがあるのですが、それはまだ幼稚園児の頃で記憶も朧げなものでした。今回こうして金色堂の仏像群を目の当たりにしたことで、改めて現地で拝観したい気持ちになりました。
この特別展は4月14日まで、東京国立博物館本館特別5室で開催されています。現地では絶対に観られない近さで仏像を観ることができる貴重な機会ですので、興味を惹かれた方は是非行ってみてください。