共 結 来 縁 ~ あるヴァイオリン&ヴィオラ講師の戯言 ~

山川異域、風月同天、寄諸仏子、共結来縁…山川の域異れど、風月は同天にあり、諸仏の縁に寄りたる者、来たれる縁を共に結ばむ

追悼エディタ・グルベローヴァ〜モーツァルト《魔笛》より夜の女王のアリア『復讐の炎は地獄のように胸に燃え』

2021年10月21日 16時40分45秒 | 音楽
今年は何という悲しい年なのでしょう。先月、すぎやまこういちさんが他界したという悲しいニュースがあったばかりだというのに…。

世界最高峰のソプラノ歌手の一人で、約50年にわたり第一線で活躍し続けていたエディタ・グルベローヴァが、10月18日にスイスのチューリッヒで亡くなられたことが報じられました。74歳でした。



エディタ・グルベローヴァ(1946〜2021)はチェコスロバキア(現在はスロヴァキア)のブラチスラヴァに、ドイツ系の父親とハンガリー系の母親との間に生まれました。幼い頃から頭角を現し、学校の合唱団などで歌唱を披露していたといいます。

1968年にブラチスラヴァでロッシーニ《セヴィリアの理髪師》のロジーナ役でデビュー。1970年にはウィーン国立歌劇場でモーツァルト《魔笛》の夜の女王役に抜擢されてプロとしての本格的な活動を開始した後、数々の名演で世界的な名声を獲得しました。

ともすると機械的とすら言われるほどの精巧なテクニックに裏打ちされた歌唱で人々を魅了し、完璧にコントロールされた美しいハイトーンは世界中から絶賛されました。レパートリーはモーツァルト《後宮からの逃走》《コシ・ファン・トゥッテ》《ドン・ジョヴァンニ》《魔笛》、ロッシーニ《セミラーミデ》、ベッリーニ《清教徒》《ノルマ》《夢遊病の女》、ドニゼッティ《ランメルモールのルチア》《ロベルト・デヴェリュー》、ヴェルディ《リゴレット》、ドリーブ《ラクメ》、トマ《ハムレット》《ミニョン》、オッフェンバック《ホフマン物語》、リヒャルト・シュトラウス《アラベラ》《ナクソス島のアリアドネ》と実に幅広く、特に生前のリヒャルト・シュトラウスと親交のあった指揮者のカール・ベームからは

「リヒャルト・シュトラウスが貴方の存在を知っていたら、どれ程喜んだことだろうか。」

という賛辞を贈られたことは有名な逸話となっています。

グルベローヴァは親日家としても知られていてピアニストで指揮者の夫君フリードリヒ・ハイダー氏と共に度々来日していましたが、2015年に引退を発表して2019年に歌手活動から引退。2017年にハンガリー国立歌劇場の来日公演で出演したのが、日本での最後の舞台となりました。 



グルベローヴァは1996年に開催されたフィレンツェ歌劇場来日公演によるドニゼッティ《ランメルモールのルチア》に、プリマドンナとして出演していました。個人的な話で恐縮ですが、私はその藤沢公演に行くことができ、そこで生でグルベローヴァのルチアを聴くことができましたが、ルチアの独壇場である『狂乱の場』での絶唱は圧巻の一言で、鳴り止まぬ拍手に応えて何度も何度もカーテンコールに応じてくれたことを今でも鮮明に思い出します。

また同時期に渋谷のタワーレコードでトークセッションも開催され、夫君ハイダー氏と共に登場していろいろな話をしてくれたところにも参加することができました。間近で見るグルベローヴァは驚くほど小柄で、こんな小柄な身体のどこから大劇場に響き渡るほどのあの声が出るのかと不思議に思うほどでした。

トークセッションの最後には目の前を通りかかったグルベローヴァに直接花束を渡すチャンスにも恵まれました。ちょっと驚いたような顔をしながらもニッコリと微笑んで

「Danke!」

と花束を受け取って握手してくれたことは、私の生涯の中で忘れ得ぬ思い出です。

数多あるグルベローヴァの歌唱の中でも、私が特に好きなのがモーツァルトの《魔笛》の夜の女王です。初めて聴いた夜の女王がグルベローヴァだったこともあって、今でも私の夜の女王の基準はグルベローヴァの歌唱です。

モーツァルトが書いた16分音符の一個一個が克明に聴き取れるような完璧な歌唱と、何の憂いも無く楽しめる驚異のハイトーンでの夜の女王はいつ聴いても素晴らしいものです。そんなわけで、今日は1982年に収録されたグルベローヴァによる《魔笛》の夜の女王のアリア『復讐の炎は地獄のように胸に燃え』の動画を転載してみました。

ここに謹んで、エディタ・グルベローヴァさんの御冥福を御祈念申し上げます。

合掌。



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