じゅくせんのつぶやき

日々の生活の中で感じた事をつぶやきます。

坂口安吾「肝臓先生」

2022-04-18 15:36:44 | Weblog
★ 坂口安吾と言えば「堕落論」がまず浮かぶ。しかし、この方、「不連続殺人事件」(角川文庫)といったミステリー小説も書かれている。どんなものか、興味本位で発注し、同時に「肝臓先生」(角川文庫クラシックス)も購入した。

★ まずは「肝臓先生」から表題作を読むことにした。この作品を原作にした「カンゾー先生」(1998年)という映画を以前観た覚えがある。カンゾー先生こと赤城風雨を柄本明さんが演じられていた。麻生久美子さんの若々しさが印象的だった。

★ さて、「肝臓先生」は紀行文風の書き出しで始まる。作家が訪れた伊豆の温泉町。そこで聞いた町医者(赤城風雨)のことを聞き書きした体になっている。時は、戦火が激しくなる昭和10年代。赤城医師はどの患者にも「肝臓炎」の診断を下すことで有名だった。「肝臓先生」というあだ名の由来である。

★ 実際、彼の患者には肝臓を患う者が多く、他の権威ある医師も肝炎の増加を認めているから、先のスペイン風邪の後遺症や栄養状態などが関与しているのかも知れない。それはともかく、「風ニモマケズ、雨ニモマケズ」、病人があると聞けば駆け付ける「足の医者」を自負する彼の人柄は多くの「信者」を生んだという。彼は町医者道を全うした人だった。

★ 軍部と対立したエピソードや、戦後すぐ「料理飲食店禁止令」などというものがあったことなど新たな発見もあった。

★ 肝臓先生は劇的な最期を迎えるが、自らの信念に基づいて生きた人の輝きを感じた。

★ 録画しておいた、NHK「100分de名著」、ハイデガーの「存在と時間」第2回を観た。常に襲い来る不安から身を護るため「世人」として生きている現存在(人間)。不安から解放され、「安らぎ」は如何にして得られるのか。肝臓先生のような生き方は一つの解決策なのかも知れないと感じた。
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夏樹静子「尽くす女」

2022-04-16 23:43:09 | Weblog
★ 日本推理作家協会編「ミステリー傑作選 犯行現場にもう一度」(講談社文庫)、最後を飾るのは藤田宣永さんの「生きた証拠」と夏樹静子さんの「尽くす女」。どちらも中年の(あるいは初老の)男女が主人公の話。親近感を感じるのは、自分もこの年になったせいだろうか。

★ 「生きた証拠」は、ある探偵が語り部。この探偵、今は解散したが、ある小さなヤクザ組織の御曹司。最近頻発する空き巣事件。仏壇に線香を備えると言った手口から、かつての組員の犯行を疑う。それに、今回は殺人まで。「まさか」とは思いながら、真相究明に乗り出す。人間と年を重ねても色恋だけは別物らしい。

★ 「尽くす女」はあるボランティアの女性が主人公。この女性、人に尽くすのが趣味のようで、身寄りのない年寄りを見つけては世話を焼く。世知辛い世の中、最初は奇妙がっていた年寄りも、日を重ねるほどに感謝の念をもつようになる。ある年寄り(と言ってもまだ60代だが)など、身寄りもなくその上、大病を患い、孤独に臥せっていた。女性の献身的な援助で気持ちよく旅立ったようだった。

★ しかし、この女性にはある策略があった。

★ 藤田さんも夏樹さんも、さすがにうまい。楽しく読ませてもらえる。

★ 今日はドラマ「ピカード」と「今野敏サスペンス 連続ドラマ編」から「海風」を観た。1日中、授業だったが、楽しい1日だった。
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加納朋子「ガラスの麒麟」

2022-04-15 22:57:44 | Weblog
★ 曇り空。暑さはマシだが、少々鬱な気分になる。明日はカラッと晴れてくれるかな。

★ さて、日本推理作家協会編「ミステリー傑作選 犯行現場にもう一度」(講談社文庫)はいよいよ大詰め。今日は、日下圭介さんの「疑いの車中」と加納朋子さんの「ガラスの麒麟」を読んだ。

★ 「疑いの車中」は代議士の妻が殺された話。その葬式に参列した知人たちが帰りの車内であれこれ噂話をする。果たして犯人は。

★ 「ガラスの麒麟」は、女子高生が刺殺された事件。この事件が起こる前日、もう一つの事件があった。犯人を追うのではなく、被害者の心理に迫っているのが特徴。異色で楽しく読めた。果たして「ガラスの麒麟」とは。

★ ドラマ「インビジブル」が始まった。面白そうだけれど、果たしてどうだろうか。オリジナルの脚本だという。

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歌野晶午「水難の夜」

2022-04-14 18:55:19 | Weblog
★ ドラマ「今野敏サスペンス」の「正義」のエピソード、そこでは法律で裁けない人を自らの手で裁くグループが登場していた。

★ 歌野晶午さんの「水難の夜」(日本推理作家協会編「ミステリー傑作選 犯行現場にもう一度」講談社文庫所収)にも同じような訴えがあった。

★ 催眠商法で高齢者から多額のカネを巻き上げた「しあわせ商会」の女性社長が刺殺された。全身メッタ刺し。その犯行に強い憎しみが感じられた。遺体を発見したのはピザを配達してきたアルバイト。パニックになりながら警察に通報。早速、捜査が始まった。

★ この事件ではマンションの管理人が活躍する。実際、真相を解明したのはほとんどこの管理人の推理だ。作品は、警察官が(恥を忍んで)回顧録としてこの事件を語る形になっている。

★ 「民事不介入」。今回もそれが壁になっている。大きな事件でも起こらないと警察は動いてくれない。後手に回るのはやむを得ないのか。
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貫井徳郎「崩れる」

2022-04-13 23:18:31 | Weblog
★ NHK-BS「星新一の不思議な不思議なドラマ」第2回は「生活維持省」。生きる権利と死ぬ義務。生死を決めるものは案外こういうことなのかも知れない。次回は「不眠症」。先走って原作(「ボッコちゃん」新潮文庫所収)を読んだ。どう映像化されるやら。

★ まだ4月だというのに昼間の暑さは強烈だ。しかし、明日は天気が崩れそうだし、気温も少し下がるという。まだ衣替えは早そうだ。

★ 「崩れる」ということで、貫井徳郎さんの「崩れる」(日本推理作家協会編「ミステリー傑作選 犯行現場にもう一度」講談社文庫所収)を読んだ。

★ カスな男をつかんだら悲劇だ。結婚した当初の夫は芸術的才能が評価され、明るい未来が約束されているかのようだった。しかし有頂天になった夫の才能はすぐに萎んでしまい、家計は妻の不休のパートで何とか支えられる始末。働かない夫に一人息子も反抗をはじめ、しかし成長すると夫と同じような「中2病」。

★ 昼夜の労働に疲れ、夏の暑さにうんざりし、それでもねぎらいどころか、「そうめんが食べたい」などと冷房の効いた部屋で(それも窓を開けっぱなしのありさま)うつつをぬかす夫と息子に遂に妻(母親)はキレた。

★ 犯罪は憎むべきだが、この女性には同情を禁じ得ない。

★ 今野敏スペシャルは連続ドラマ編から「正義」を観た。樋口係長(内藤剛志さん)と生活安全課の氏家捜査官の友情が良い。
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小池真理子「獣の家」

2022-04-12 21:06:29 | Weblog
★ 日本推理作家協会編「ミステリー傑作選 犯行現場にもう一度」(講談社文庫)から、小池真理子さんの「獣の家」を読んだ。

★ この巻は、髙村薫、中島博行、連城三紀彦、小池真理子、貫井徳郎、歌野晶午、日下圭介、加納朋子、藤田宣永、夏樹静子とビッグネームが並ぶ。

★ 「獣の家」は華々しい披露宴で幕が開く。新婦は主人公の妹。男女のもつれに話が進むのかと思いきや、主人公が高校生、妹が中学生の頃のある出来事が回想される。

★ その頃、主人公の家の近くにトタン屋根の小屋があり、そこに独りの老人が住んでいた。気の良い人で、廃品回収で生計を立てていた。主人公の妹はどういうわけかこの老人と気が合うらしく、その小屋によく出入りをしていた。そんなとき、老人が死んでしまう。

★ 老人の死をめぐって、物語はダークな世界に入っていく。話の進め方が、うまいなぁーと思う。恐ろしい余韻を残して物語は終わる。人間の心の闇に触れてしまった気がした。

★ ドラマでは今野敏サスペンスシリーズ(テレビ東京版)を楽しんでいる。「暁鐘」(第12作目)、「回帰」(第6作目)と観て、次はどれを観ようかな。
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連城三紀彦「夜の二乗」

2022-04-11 23:36:17 | Weblog
★ 暑い夜に酒を飲んでほろ酔い気分。最高。

★ 日本推理作家協会編「ミステリー傑作選33 犯行現場にもう一度」(講談社文庫)から連城三紀彦さんの「夜の二乗」を読んだ。

★ ある男の妻が殺された。絞殺だった。第一発見者の夫が疑われたが、彼はアリバイを主張する。妻が殺された時刻、愛人と一緒にいたと。ところがその愛人も殺されていた。男の妻が殺された時刻と同じころに。男は証言を翻し、愛人殺害のアリバイとして自分が妻を殺したと言い出した。

★ 同時刻に二つの殺人。男はどうやってこれを実現したのか。

★ ずいぶんと込み入った事件で、読者もアリバイや動機に翻弄される。いいかげんイライラしたところで真相が明かされる。結果だけ見ればトリックでも何でもないが、そこが作家のトリックだ。

★ 1990年代の推理小説はなかなか良い作品がそろっている。
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中嶋博行「不法在留」

2022-04-10 15:54:17 | Weblog
★ 日本推理作家協会編「ミステリー傑作選 犯行現場にもう一度」(講談社文庫)から中嶋博行さんの「不法残留」を読んだ。

★ 毎年の傑作ミステリーが収められるアンソロジー集、この巻は一気に1990年代中盤までさかのぼる。ある工場が外国人労働者の不法就労で捜索され、不法在留者が一斉に検挙された。彼らの中には単純なオーバーステイの者もいれば、そもそも入国を許可されていない密入国者もいた。その一人が、当番弁護士を依頼した。

★ 若い弁護士、京森英二は独立し、こまごました仕事をこなして事務所を営んでいた。そんな彼のもとに当番弁護の依頼が来る。他に仕事を抱え、気乗りしないが当番だから仕方なく被疑者と接見。被疑者は中国人で日本語を流ちょうに話す。彼の依頼は刑事弁護ではなく、未払いの賃金を回収してくれとのこと。一応相手に確認をするが全く相手にされず、これで自分の仕事は終わりと決めていた。

★ ところが、その被疑者が護送中に銃殺され、物語は急展開する。

★ 中嶋博行さんは弁護士をされているそうで、作品には法律関係の用語が盛り込まれている。独特の専門用語で、日頃馴染みがない世界をリアルに感じることができる。

★ 弱弱しそうな京森弁護士だが、ハードボイルドな一面も。

★ それにしても暑い。まだ桜が残っているが、初夏の様相だ。
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高橋克彦「鬼女の夢」

2022-04-09 14:29:41 | Weblog
★ NHKドラマ「星新一の不思議な不思議な短編ドラマ」から「ボッコちゃん」を観た。バーのマスターが趣味で作った人型ロボット。容姿は麗しいが、頭は空っぽ。プログラムされた簡単な受け答えしかできない。しかし、そのあっさりした対応が意外と受けて、店は大繁盛。しかし・・・。

★ 改めて原作(「ボッコちゃん」新潮文庫)を読んだ。ほぼ原作に忠実にドラマ化されていた。最近はアレクサと会話をしている人もいる。「ボッコちゃん」は案外良い商品になるかも知れない。喪黒福造ではないが「くれぐれの取扱にはご注意を」。

★ さて、日本推理作家協会編「ミステリー傑作選 殺人格差」(講談社文庫)から、高橋克彦さんの「鬼女の夢」を読んだ。高橋さんの自伝的小説だという。

★ ある夜、主人公は一緒に寝ていた弟が何者かにさらわれていく夢を見た。背に逆さに吊られた弟。何者かは振り返る。それが叔母の顔をしていたというのだ。それも鬼の形相で。

★ 主人公は学校に通うため叔父夫婦の家に下宿していた。子どもだったせいか叔父夫婦に遠慮なく甘えていた。しかし、成長して振り返ってみると、叔母の笑顔に隠された気持ちが痛く突き刺さる。当時、叔母は昔気質の姑ともうまくいっていないようだった。

★ 叔母が亡くなって法事で集まった親族。主人公に叔母の素顔が蘇る。それは「鬼」などではなかった。
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星新一「生活維持省」

2022-04-08 19:17:29 | Weblog
★ 映画「ロシアン・スナイーパー」を観終わった。独ソ戦の最中、300人以上のドイツ人兵士(彼女に言わせればファシスト)を射殺した女性スナイパーの物語。実在の人物をモデルにしている。

★ 「1人を殺せば殺人者だが、100万人を殺せば英雄になる」。これはチャップリンの映画のセリフだったか。戦争とは人を殺すこと。為政者は大義名分を掲げるが、何が正義なのだろうか。ヒトラーは大虐殺を指導したが、スターリンも粛清の名のもとに多くの人々を殺害したではないか。

★ 「これが、戦争というものだ」というセリフが重い。

★ 逢坂冬馬さんの「同志少女よ、敵を撃て」(早川書房)が届いたので、読み始めた。第1章の冒頭は「アメリカン・スナイパー」の1シーンを思い起こす。

★ NHKが星新一作品をドラマ化している。「ボッコちゃん」は見逃してしまったが、オンデマンドで観てみよう。次回は「生活維持省」ということなので、先回りして「ボッコちゃん」(新潮文庫)から「生活維持省」を読んだ。

★ 貧困も病気もストレスもない社会。ユートピアのような社会だが、そこにはある決まりがあった。快適な生活を維持するために私たちはこの不条理を受け入れることができるのか。

★ 先の世界大戦から80年弱。その間も代理戦争、民族紛争、内乱は数知れず。テロやヘイトクライムも多発している。人類の進化もまだこの程度のものなのか。
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