岩国市 岩国エッセイサロン会員 沖 義照
台風の接近で秋というのに天の低い昼下がり、久しく見向きもしなかった古い文庫本のなかから1冊を取り出した。見開きに万年筆で購入日が書いてある。21歳のとき買ったものだ。
めくっていくと、最後のぺージに赤い線が引いてある。「傷ついても、之が神から与えられた杯ならばのみほさなければならない」というくだりである。失恋という逆境こそが、より強く生きることができる原動力だとうたった武者小路実篤の『友情』である。
私が逆境でもがいていたときに読んだ本なのだろう。赤い線が、左に右に大きく揺れ動いている。
(2009.11.05 毎日新聞「はがき随筆・特集『実』」掲載)
台風の接近で秋というのに天の低い昼下がり、久しく見向きもしなかった古い文庫本のなかから1冊を取り出した。見開きに万年筆で購入日が書いてある。21歳のとき買ったものだ。
めくっていくと、最後のぺージに赤い線が引いてある。「傷ついても、之が神から与えられた杯ならばのみほさなければならない」というくだりである。失恋という逆境こそが、より強く生きることができる原動力だとうたった武者小路実篤の『友情』である。
私が逆境でもがいていたときに読んだ本なのだろう。赤い線が、左に右に大きく揺れ動いている。
(2009.11.05 毎日新聞「はがき随筆・特集『実』」掲載)