はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

飢餓の川

2009-11-14 19:27:17 | はがき随筆
 川に魅せられ、川をたずね、ついに私は大淀川の源流にたどり着いた。8月18日である。
 時に、川は人に似ている。
 川内川の水源は石が多く、荒涼として何かを訴えるようだった。球磨川の源は、ツガや下草が繋る豊かな表情をし、大淀川の源流は、穏やかで優しい。
 ところが、私は川に少しも似ていない。川は何事にも執着せず流れ行く先を知っているが、私は何にでも執着し、行く先を知らない。川は多くの生物を潤すが、私は私の思わぬところで人を傷つけながら生きている。
 私に川の名をつけたら「飢餓の川」が、ぴったりか。
  出水市 小村忍(66) 2009/11//14 毎日新聞鹿児島版掲載

山のおもてと裏

2009-11-14 19:06:41 | はがき随筆
 まるであわてて変身したかのように色を競い合い「見て!」といわんばかりに青空に胸を張り、きらきら輝いている木の葉たち。そして白紫・六観音・不動の池をこれでもかと引き立てている。美しい。
 寒波の予報に、今日しかないとえびのへ向かった。考える事は皆おなじ、つかのまの四季の恵みに大勢の人が紅葉のトンネルを笑顔で行き交っている。
 帰りぎわ、救急車やヘリコプターのざわめきに不吉な予感。家族とはぐれた一人の少年が山の中にいたのだ。翌日は冬の嵐。祈る思いは届かず、悲報の映像に涙が止まらなかった。
  薩摩川内市 田中由利子(68) 2009/11/13 毎日新聞鹿児島版掲載
写真はMysさん