はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

ジングルフライバン

2018-12-29 15:33:55 | はがき随筆
 10歳を頭とする4人の子供たちへのプレゼント。男の子2人には青い紙で、女の子2人には赤い紙で包んだ。クリスマスイブの深夜、抜き足、差し足で、そろりと外へ出た。そこは草木も凍る銀色の世界。キーンと冷たい師走の風が胸元を刺す。(さあ、サンタがきたぞ、シャンシャンシャン……)私はフライパンをすりこり木で思いっきりたたいた。ゴン!ゴン!ゴン!ジングルフライパン? の鈍い音が響いた。
 あの夜の4つのびっくり顔がよみがえる。30数年がたち、一人暮らしとなった今でも、それは私の心の灯りとなっている。
 宮崎県西都市 金丸洋子(68) 2018/12/20 毎日新聞

感激の一日

2018-12-29 15:25:15 | はがき随筆
 OB会総会の案内状が来た。体調不良の不安があり、女性代表役員の友人に電話する。「こっちから電話しようと思っていたのよ。是非出席して。米寿祝いするから」「エッ、だったらはってでも行かないとね」。二人して大笑い。
 当日、会場は懐かしい顔ばかり。現在のように冷暖房はなく、夏は天井の扇風機、冬はストーブのみ。和気あいあいと頑張っ仲間たち。思い出話は尽きない。総会に入り「米寿と喜寿」祝いに。私が会最初の米寿祝い者だ。大黒様のような帽子と半袖を着け、皆と記念写真。素晴らしいひとときだった。
 熊本市中央区 原田初枝(88) 2018/12/20 毎日新聞

五色の紙風船

2018-12-29 15:16:19 | はがき随筆
 少し肌寒い季節になると「ごめんください」と唐草模様の大きな風呂敷包みを背負った「越中どん」が年1回わが家にやって来ていた。母ちゃんはいつも「まあ茶いっぺ」ともてなしをしていた。縁側に荷物をおろし中を開く。すると薬独特のニエ(匂い)がプーンとする。使った分の薬をつめ替えて代金を清算する方法だった。「毒掃丸」「赤チンキ」「ケロリン」など置き薬があったが、ぼくの心待ちはおじさんからもらう「五色の紙風船」。息をふき込み、ポンポンと突いて遊んでいた。歳を取るたびに、こども時代を懐かしむ。生きている証しかなあ。
 鹿児島県さつま町 小向井一成(70) 2018/12/19 毎日新聞

ピアノ

2018-12-29 15:08:09 | はがき随筆
 音楽に疎い私はいつの頃からか、疎ましい程、音楽に執着を持っていた。20歳の頃、主人に惹かれたのも、一つ、電話を通しての声の良さだった。音楽を愛する環境になかった私は、子供たちにはそうなって欲しくない一心で、苦しい加計の中からピアノを買い教室に通わせた。
 長女、二女共に10年以上頑張ってくれた。そして孫が4歳になり、思い入れがあるピアノを修理し使ってくれるという。次につなげられる喜びを与えてくれたみんなに感謝! 今、孫がそのピアノで喜んで練習してくれている。初めてのピアノ発表会が楽しみです。
  宮崎県延岡市 飛鳥井真弓 2018/12818 毎日新聞

もう一度

2018-12-29 15:01:06 | はがき随筆
 「わぁ、ありがとう」。娘が見つけてきてくれたピンクの髪留めは、銀色の髪にしっとりとなじんでみずみずしく光った。
 この1年、老化のオンパレードで、どん底の体調を引きずりはがき随筆にも遠くなった。
 大きく育ったドーダンツツジの赤と、少し背の高いモミジがコラボして絶妙の構図を見せる。もう何年も実をつけなくなった柿の古木には、青空に一番近い所に懐かしい柿色の実が5.6個。ナンテンもふっくらとまあるい実がなった。
 この小さな私の宇宙の素晴らしい風景を長くとどめたい。うーん、時間よ止まれ。
 熊本市東区 黒田あや子(86) 2018/12/17 毎日新聞

薩摩の偉人

2018-12-29 14:52:42 | はがき随筆
 大河ドラマ「西郷どん」も終盤となり、偉人たちの活躍をより深く知ることができた。
 西郷さんと共に明治維新の大業を成し遂げた大久保利通の本がある。没後百年を記念して刊行されたもので、錦絵も挿入され、誠実な人柄や逸話などが書かれ、興味深く読んだ。
 政治家としても先見の明があり信念が強く、決して言い訳をしない薩摩人です。西郷さんと共に誇れる郷土の偉人でした。
 有名な書に「為政清明」がある。政治は清潔にして透明に行うべきの教えと思うが、平成の政治家はこの言葉、ご存知でしょうか。
 鹿児島市 竹之内美知子(84) 2018/12/16 毎日新聞

48年目の再会

2018-12-29 14:45:21 | はがき随筆
 山口県に住むKさんが「大学の仲間に会いたいね」と言った。U君と連絡を取り、呼びかけと店の予約をしてくれた。当日6人が集まった。同期は12人。卒後、全員で集まることもなく48年が過ぎ、古稀を迎えたが、すでに2人が亡くなっている。
 N君、S君は再就職して今も現役。U君は2年早く退職し、病気を克服。好きなサッカーを楽しむ。2度の臨死体験をしたH君は痛みを抱えながら、鹿児島から参加した。Kさんは退職後介護の資格を取り、頼られる存在だ。皆精いっぱい生きて、今も継続中! 早世した二人にも会いたかった。
 宮崎県高鍋市 井手口あけみ(69) 2018/12/15 毎日新聞鹿児島版掲載

物音

2018-12-29 09:29:34 | はがき随筆
 鳥が走る。スズメ、セキレイ、ヒヨドリ。見知らぬ鳥。杉垣に声はしても姿は見ない。散り切らぬ毬の窓に映える巨大な影。地をこする落ち葉の濁音。時々ドスンと地響きは、隣のカリンの落果音。秋はかしましい。
 私は原因を知るから判別できるが、以前、叔母が一人で家の留守番をした時、静かなザワザワ音が怖かったか、鍵もかけずに別の親戚宅に逃げた。町暮らしの叔母には田舎の変化の物音が訳もない恐怖をあおったのでろう。この住みか、私にはパラダイスだが、他人にとっては魔界もあり得るなぁ。愉快な音も知らねば恐怖にしかならぬ。
 熊本県阿蘇市 北窓和代(63) 2018/12/14 毎日新聞過去しま版掲載