はがき随筆 8月度
月間賞に柳田さん(宮崎)
佳作は柏木さん(宮崎)、武田さん(鹿児島)、木村さん(熊本)
はがき随筆8月度の受賞者は次の皆さんでした。
【月間賞】29日「夕暮れ時に」柳田慧子=宮崎県延岡市
【佳作】1日「給与明細書」柏木正樹=宮崎市
▽29日「傘寿」武田静瞭=鹿児島市西之表市
▽29日「74年目の回想」=木村寿昭=熊本市中央区
「夕暮れ時に」は、読む人の気持ちを優しくしてくれる、美しい文章です。夕暮れ時に訪れた、知的障害をもつ青年の柔らかい美的感性が、廊下の小さな明かりやかすかなサンダルの音にも心を動かしたことによって表されています。つい夫婦と3人での立ち話が弾み、その人が礼儀正しいあいさつとともに帰っていった後も、一刻、幸福な気分が漂ったようすに読みとれました。
「給与明細書」は、奥様が自慢げに見せてくれた、39年間一枚の欠けもない給与明細書にまつわる思い出です。小遣い稼ぎに明細書を書きかえる達人、銀行入金になったときの味家なさなどなどの思い出。家計簿には安月給のやりくりまで記してあった。ご夫婦の貴重な歴史です。
「傘寿」は、奥様に80歳の誕生日に、80にちなんで8000円の花束を贈ったら、「もったいない」と言いながらも「生まれて初めてもらった」と喜んでくれたという内容です。往々にして私たちは、愛は空気のようにあるものだと思いがちですが、最近読んだドイツ人の小説に、「愛は意思だ」という表現がありました。やはり努力が必要で、こういうさりげなさはいいですね。
「74年目の回想」は、たまたま農作業をしているときに、長崎の原爆投下を遠望したという内容です。おそらくそのときは何が起こったかお分かりにならなかったでしょう。しかしそれから74年間いろいろの情報によって「特殊爆弾」が「原子爆弾」として認識され、そのときの「爆炎」のその後の悲惨な実態が思い出されたことでしょう。
8月ということもあり、また、昨今の我が国を取り巻く国際関係や、世界の随所での戦禍のニュースが絶えないせいでもあるでしょうか、戦争に関係する内容の文章が目立ちました。ある世代以上の人々には忘れがたい記憶です。
この他に、黒木正明さん戦争中の虚偽「聖戦」、高橋誠さんの幼稚園児の視線による「キャベツの青虫」、立石史子さんのヘビとの挨拶「ヘビと出合う」などの文章が印象に残りました。
鹿児島大学名誉教授 石田忠彦