はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

歌のボランティア

2019-09-16 18:19:57 | 岩国エッセイサロンより

2019年9月16日 (月)

 

    岩国市  会 員   吉岡 賢一

 近くのカラオケ同好会のリーダーから「カラオケに行きましょう」とお誘いがあった。まんざら嫌いな道でもないので一応お受けして約束の場所に出向いた。男性3人、女性2人が待っていて「得意な歌を3、4曲ぜひお願いします」と乗せられ、つい破れ声を張り上げてしまった。
 「実は私たちは同好会のメンバーで介護施設などを訪問して歌を聞いてもらっています。もちろんボランティアで」という意外な方向に話が進み「あなたにも、ぜひご一緒してもらって、この曲とこの曲を歌ってほしい」と曲目を指定されたのだ。
 「下手の横好きで自ら楽しむために歌ってきただけです。人様に間いていただく声でも歌でもありません」と一旦はお断りした。だが待てよ。「施設のお年寄りに喜んでいただくボランティアを一緒に」と誘われたのだ。
 地区の社会福祉協議会を通して、あれこれボランティア活動に精を出している今を考えるとむげにお断りするのもねー。しかもよく考えてみると100歳を生きた母も晩年の2年間は施設でお世話になった。そのとき、いろいろなグループが施設を訪れ、お年寄りが笑顔を浮かべていたのを思い出した。
 演歌が大好き、芝居も映画も好きだった母の前で、本気で歌って聞かせたことがなかった私に、遅ればせながら一つの親孝行の場を与えてもらったような気がして、お断りを撤回した。
 となると、歌に合わせたステージ衣装も吟味したくなる。これから胸躍る秋を迎えられそうである。
    (2019.09.16 毎日新聞「男の気持ち」掲載)


血管やわらぐ

2019-09-16 18:18:37 | 岩国エッセイサロンより

2019年9月13日 (金)

 

   岩国市  会 員   片山 清勝

 「次回来院の日、検査しましょう」。家庭医はカルテを繰りながら促す。定年後、「定期ミニ人間ドック」と思い、医師の指示通り検査を受けている。
 朝食抜きで病院へ。毎回、CTや胃カメラ、心電図、血管年齢、採血などいくつもある。手際よく検査は進み、結果が即判明する検査について説明を受けた。
 その一つ、血管年齢が.「年相応の中心点」との判定。退職からまもなくの頃、年相応の許容範囲上限を超えていた。見えない血管が少し柔軟に。この年になっても素直にうれしい。これは家内の食事療法のおかけだ。
   (2019.09.13 毎日新聞「はがき随筆」掲載)


じいのお好み焼き

2019-09-16 18:17:21 | 岩国エッセイサロンより

2019年9月12日 (木)

 

    岩国市  会 員   山本 一

 毎週木曜日の夕食は、近所に住む次女家族も一緒だ。妻はその度に、何にしようかと悩む。小3の孫息子と父親は肉、4歳の孫娘と母親は魚が好み。私たち老い二人は、悔しいがこれといったものがない。毎週続けていると、全員が喜ぶメニューはほんの数種類に限られてくる。 
 この中に、唯一私の作るお好み焼きがある。「じいちゃんのお好み焼きが食べたいって」と妻は私をけしかける。策略とは分かっても、4歳がペロリと平らげるのを見ると悪い気はしない。「混ぜ過ぎない、蒸し焼き」という私のひそかな技術を、誰も盗もうとはしない。
  (2019.09.12 毎日新聞「はがき随筆」掲載)


養護先生の力

2019-09-16 18:15:34 | 岩国エッセイサロンより

2019年9月 8日 (日)

   岩国市   会 員   片山清勝

 朝、小学生の登校がピークになる時間、玄関を出て元気な姿を見る。家の前は裏通りの小さなつじだが、3方向から児童の列が合流して表通りへ向かう地点になっている。
 それがある時、外に出てみたら、複数の高学年の女児がしゃがんで大きな声を出していた。その中心で男児が横たわっていた。
 裏通りでも車は多い。急ぎ駆け寄ると、男児に音識はあり、ほっとした。
 訳を聞くと、ふざけ合っていて、誰かの手荷物が当たり倒れたという。
  「どこか痛いか」
  「耳の中が痛い」
 私は「養護の先生に連絡しなさい」と児童たちに言った。女児の一人が「分かりました」と答え、皆で男児を立たせて表通りへ向かった。
  「養護の先生」と言ったのには理由がある。養護教諭のいる良い光景を覚えているからだ。
 何年か前、わが家の前で自転車の女児が転倒した。口から出血していたのでお世話させてもらった。その子の家族には連絡がつかなかった。小学校に連絡すると、校長と養護教諭がすぐ駆け付けた。それまで女児はめそめそしていたが、養護教諭が声を掛けた瞬間、大きな声で泣きだした。
 これこそ先生の力だと思い知った。教諭は口中を確認し 「歯科医に相談します」と言って頭を下げられた。女児と手をつなぎ、学校へ戻っていったI。
 翌朝、また児童の元気な姿を見た。私もまた元気をもらった。   
      (2019.09.08 中国新聞セレクト「ひといき」掲載)  

 

 


悲しみを背負って

2019-09-16 18:14:35 | 岩国エッセイサロンより

2019年9月 2日 (月)

     岩国市  会 員   横山 恵子


 父が亡くなった約7年前から度々お寺に参っている。我が墓近くに見覚えのある名字。もしかして以前勤めていた老人施設に入所してたEさんでは。
 そう思っていたある日、「お母ちゃーん、会いに来たよー」とお墓めがけて走って来た人は、やはりEさんの娘さん。「母の十三回忌を終えました。父は特攻隊員だったので墓には石しか入ってませんし、幼かったので顔も覚えてない」
 淡々と話される中に深い悲しみを感じた。本人の無念さ、遺族の苦労は想像以上だったろう。
「よう頑張ってこられました」と言うのが精いっぱいだった。
(2019.09.02 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

 


男の料理

2019-09-16 18:04:55 | はがき随筆

 退職後に挑戦したことの一つが料理だった。2年半ほど中華料理の教室に通い、ある程度のことはできるようになった。

 当初、子供に味見をしてもらった時「お父さん、これを男の料理と思っているだろうが雑なだけだよ」と息子から手痛い一言を見舞われた。確かに材料の切り方は不ぞろいで盛り付けも乱雑だったと思う。以降丁寧さを心掛け作るようになった。

 ある時、息子から大切な人を紹介したいので夕食の準備をしてほしい、父さんの料理も是非、と電話で依頼があった。

 私の料理は息子に星一つを与えられ進化を続けている。

 熊本市北区 西洋史(69) 2019/9/16 毎日新聞鹿児島版掲載


川の流れのように

2019-09-16 17:32:00 | はがき随筆

 散歩の途中、川の流れを見ていたら人生の来し方に思いがゆく。流れゆく水に思いが重なるだろう。よどみにはまった時、急流に巻き込まれた時、そして落下する時も、穏やかな流ればかりではなかった。遅く速く流れ下って、今たおやかな流れをじっと見ている。静かに海へ溶け込んでゆく。川面を渡る風を感じながら。絶望の時を経て夢と希望が横溢した今がある。流れは終わろうとしているが、未知の海では新しい発見、出会いが待っていると思う。満ち足りた今があればこそ、振り返る余裕も明日への夢も生まれるのだろう。光と風が心地よい朝。

 鹿児島県志布志市 若宮庸成(79) 2019/9/15 毎日新聞鹿児島版掲載


熱中症

2019-09-16 17:24:59 | はがき随筆

 暦が8月に改まってからある日のこと、発熱して目まいを感じたので横になって休んでいた。家内は病院へ出かけていた。

 同じ熊本市内へ嫁いでいる娘が、たまたま帰宅してきて「熱中症よ」と口にして、部屋の窓やドアを閉めて、クーラーのスイッチを入れた。

 「きょうはどこにも出とらんよ」と反論すると「家の中にいても高齢者は死ぬことがあるよ」と説明した。時々テレビが「猛暑の中で外出したり、激しい運動をするのは避けて、こまめに水分を補給するように心掛けましょう」と報じているが、努めて励行しようと思う。

 熊本市東区 竹本伸二(91) 2019/9/13 毎日新聞鹿児島版掲載


めざせ100

2019-09-16 17:15:37 | はがき随筆

 「はがき随筆」初投稿と初掲載が2011年6月。その感動が忘れられず、毎月投稿した。月1回のペースで載るようになると毎回2.3通出した。「100回掲載されて記念誌を出した」という人の話を聞き、この分でいくと私も……と思っていたが、昨年4月から3県(鹿児島、宮崎、熊本)で載るようなるとペースダウン。平均寿命87歳になったとはいえ、自分が自分でいられなくなると考えると、100回は少し無理。それまで頭をフル回転してネタ探し。めざせ100回、100歳。長生きしたらどうにかなるだう。いま67回。スタート。

 鹿児島県阿久根市 的場豊子(73) 2019/9/12 毎日新聞鹿児島版掲載


私の一品

2019-09-16 16:25:08 | はがき随筆

 本誌日曜版に「私のイッピン!」のコラムがある。そこで私もイッピンを⏤⏤。

 それは径約17㌢、高さ13㌢の巻貝テラマチオキナエビスの貝殻標本。全体に黄色の混じった濃い紅色、この類に独特の殻口の横に10㌢くらいの細長い切れ込みがある。貝マニア垂涎の希少種であり、所有者はまれである。東シナ海エビ漁の漁師さんが持っていると聞き三拝九拝して譲ってもらったのである。

 離島にいるとき収集した貝標本はあらかた処分したが、この標本だけは飾り棚に鎮座している。貝マニアが来れば誇示するのだが一向に現れない。

 鹿児島市 野崎正昭(87) 2019/9/12 毎日新聞鹿児島版掲載


レストラン

2019-09-16 16:17:32 | はがき随筆

 近所に小さなイタリアンレストランがオープンした。持病を持った私でもゆっくり歩いて行ける距離だ。

 久しく会っていない同級生にこの店に来られるかどうか確認してみた。するとなかなか外食に行く機会がないという友達がいて、誘われるとウキウキした気持ちになるそうだ。

 レストランで久しぶりにあった彼女たちはそれぞれの人生を歩み、年を重ねていた。

 異国の味がする料理を堪能しながらおしゃべりは尽きない。あっと言う間に時間が過ぎていく。おいしくて、憩いのひとときだった。

 宮崎市 藤田綾子(74) 2019/9/12 毎日新聞鹿児島版掲載


どっちが好き

2019-09-16 16:10:53 | はがき随筆

 スーパーで買い物をしていたら、中年の女性が近づいてきて、私の前で男物ポロシャツ2枚をひろげた。そして「あなたはどっちが好きですか」と中国語なまりで聞いてきた。

 「エッ!」と目を見張ったが、平成を装って「こっちが好き」「こっちも悪くない」と答えた。女性はうれしそうに「ありがとう」と言い離れていった。

 見事にアッケラカン。私の気持ちは明るかった。

 彼女は、買ったポロシャツをお目当ての人に渡すだろうが、「日本人も気に入ってくれた」と話すだろう。さて、気に入ってくれると良いが。

 熊本市北区 岡田政雄(71) 2019/9/12 毎日新聞鹿児島版掲載


相部屋騒動記

2019-09-16 16:03:57 | はがき随筆

 初めての入院で5人部屋。昼間は情報交換の場で結構楽しいが、初日の夜は参った。

 ちょっと風変わりに見えたAさん、深夜2時ごろ大声で皆に向かって「ジメジメしてると思いません?」。こんな夜中に勘弁してよ、と思いながら息を殺していたら誰も応答しなかったのでほっとした。眠れた明け方5時に隣のBさんの目覚ましが鳴り響いた。もう眠れそうにない。そうこうするうち窓際のCさんが「たたいちゃダメー」と明瞭な寝言。

 最近は旅行でも他人と相部屋なんてないので、今思い返せば笑っちゃう体験だった。

 鹿児島市 種子田真理(67) 2019/9/12 毎日新聞鹿児島版掲載


穏やかに

2019-09-16 15:59:33 | はがき随筆
  奈良県立博物館主催の夏季講座に参加した。特別展を分かりやすく解説してもらえるので、毎年の楽しみだ。宮崎からフェリーで神戸へ。そこから電車で奈良に直行する。車内は、コリアンの言葉が飛び交う。旅行か、日本在住の人たちか。
 5.6歳くらいの男の子が話しながら、靴のまま座席に足を掛けた。すると、母親とみられる人が、ぴしゃりとその足をたたいたのだ。日本人でも、そういう行為に無頓着な親がいる。
 政治の世界では今、日韓関係に一触即発の緊張感がただよう。この国に棲む人々が穏やかに生活されるようにと、祈る。
 宮崎市 河上久子(70) 2019/9/14 毎日新聞鹿児島版掲載

孫の結婚式

2019-09-16 15:55:53 | はがき随筆

 長男の長女の結婚式に出席した。何十年振りかの結婚式だ。孫は襟足のきれいな子だった。きれいな日本髪を想像して式場へ。あれ? 無垢の和服に変わりはないが髪は結ってない。そのうちにと待ったが日本髪は見られない。何人かの祝辞を受けたが私には内容はわからない。

 何回かのお色直しに長いドレスを着て客席を回歩しテレビを見てる様な錯覚に。万歳三唱でお開きに。2人は玄関でお客様を見送っている。うれしそうな2人に「幸せにネ」と声をかける。ポタポタポタと真っ暗になり何も見えない。手を引かれて車へと……。

 宮崎県日之影町 甲斐カツエ(94) 2019/9/12 毎日新聞鹿児島版掲載