本紙の本の紹介欄で「ほのぼの路線バス」を読み思い出した小さな旅の事。今では町も様変わりして停留所もなく思い出すよすがもないが。売店を兼ねた切符売り場にたくさん物が並んでいた。数個が一列にネットに入り吊り下げてあった蜜柑。たぶん母と眼科医院に行った時だろう。寒々と細長く感じた廊下に置かれた長椅子を立ち、一緒に診察室に入った。帰りはバス停前の饅頭屋さんで十個、お土産を買うのが嬉しくて堪らなかった。今ではささやかな幸福の記憶。しかし私はいつも食いしん坊だなぁ。いつも思い出の多くが食べ物に終始する。
熊本県阿蘇市 北窓和代(65) 2020/8/10 毎日新聞鹿児島版掲載