熱帯夜が明ける。開け放たれたカーテンの向こうで、十数輪の淡い紫色の朝顔の花が「おはよう」の声をかけてくれる。そのかれんな花も数時間のうちにしぼみ、先ほどの清らかな姿はもうない。朝顔はたくさんの種を宿し満足なのだ。やがて無数の種は地面に落ち、来年の夏には確実に清らかな顔を見せる。
古希は迎えたが、この世に残した物など何もない。無為に70年を過ごしただけか…。
「いや、違う。2人の子供を育て、孫までいるじゃないか。次への命をつないだではないか、凡人三男万歳! これで上出来だよ」と一人高笑いする。
肝付町 吉井三男 2012/9/24 毎日新聞鹿児島版掲載
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