はがき随筆・鹿児島

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「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

はがき随筆8月度入選

2010-09-25 14:59:52 | 受賞作品
 はがき随筆8月度の入選作品が決まりました。

▽ 志布志市野井倉、若宮庸成さん(70)の「夢の続きを……」(24日
▽ 霧島市国分中央、口町円子さん(70)の「いらぬおせっかい」(31日)
▽ 出水市昭和町、田頭行堂さん(78)の「作業やめ5分前」(12日))


──の3点です。

 あまりの暑さに、外出時は傘をさすことにしましたが、日傘がこれほど涼しいものとは知りませんでした。始めは男の日傘に照れくささもありましたが、今では手放せなくなっています。夏目漱石の小説に、日傘が出てきますが、男がささなくなったのは、いつごろからでしょうか。
 若宮庸成さんの「夢の続きを…」は、氷壁を登る夫婦の描写に始まり、後半でそれが夢だと分かる、文章の転換が実に巧みです。日常の苦しさの夢ばかり見るのに、このような充実感のある夢は、その続きも見たいものだという願望が書かれています。夢は、空言てはなく、もう一つの人生です。
 口町円子さんの「いらぬおせっかい」は、巣から落ちた子雀を、孫と一緒になんとか世話しようとするが、うまくいかない。そのうち、親雀が出て来て、餌を与えて、連れ去ったというエピソードです。観察の細かさと対象への優しい心遣いが表れている好印象の残る文章です。
 田頭行堂さんの「作業やめ5分前」は、戦時中の学徒動員で作業させられた時、「作業やめ5分前」の放送が嬉しかった。ところが、先輩たちは「学業やめ1年前」のくりあげ卒業で戦地へ。そして今、自分は「人生やめ○年前」になってしまっている。柔らかいユーモアの中に、考えさせられるものが含まれています。
 以上の入選作の他に、3編をご紹介します。
 垂水市海潟、宮下康さん(51)の「嬉しい雨」(5日)は、買い物の帰り、にわか雨に遭って困っていると、そこの店員さんに親切にしてもらった。それが「マニュアル挨拶」ではなかったので、嬉しかったというものです。実感です。姶良市加治木町錦江町、堀美代子さん(62)の祖母とお手玉(8日)は、布の端切れが見つかったので、昔祖母に教わったとおりにお手玉を作ってみた。記憶をたどっての、その作り方の描写が詳細を極めています。出水市高尾野町上水流、松尾繁さん(75)の「前座」(16日)は、一言で言えば戦争体験の継承の難しさということになりますが、小4の子どもへの読み聞かせの苦労が書かれています。
  鹿児島大学名誉教授・石田忠彦

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