はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

2015-11-19 11:27:51 | はがき随筆
 98歳だが、かくしゃくとした父が脳梗塞で倒れた。
 病室から見る有明海のかなたに、激動の異国での青春の在りし日に思いをはせているのか、時折合掌している。
1世紀近く愚直に生き、平和を重んじ、人命を尊ぶことを語る父を大樹の如く仰ぎ見て私たちは育った。「もうすぐ退院できる」と耳もとで言えば笑顔で応じる。「枯れ木も山のにぎわい」と裏方に徹した父の寝顔に、枯れ木は春の芽吹きを待つ裸木と思える自分になった。
 退院したら、温泉で背中をながしてやると言えば、酸素マスクの父はうなずいた。
  出水市 宮路量温 2015/11/17 毎日新聞鹿児島版掲載

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