はがき随筆・鹿児島

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「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

幻想の駅跡

2012-11-29 00:25:03 | はがき随筆
 故郷の吉利駅跡を訪ねた。旧南薩鉄道は昭和59年に廃線になったが、最近駅跡が整備され、憩いの場が誕生していた。駅は村の玄関口として数限りない歴史を刻んできた。列車を待つ乗客と送迎の人たちがあいさつを交わし、情報がもたらされ活気があった。戦時中は幾多の将兵を見送り、戦後は戦地や外地から多くの引き揚げ者が降り立った。待合室では警察がヤミ米を摘発する光景も見かけた。残されたホームに立つと、黒煙を吐いて蒸気機関車が入ってきて、駅長が発車の合図を送る情景が浮かぶ。しばしの幻想を抱かせたひとときであった。
  鹿児島市 田中健一郎 2012/11/21 毎日新聞鹿児島版掲載

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