はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

はがき随筆2月度

2020-03-21 15:34:08 | はがき随筆
月間賞に岡田さん(熊本)
佳作は中村さん(宮崎)、宇都さん(鹿児島)、増永さん(熊本)

 「はがき随筆」の2月度受賞者は次の皆さんでした。(敬称略)
 【月間賞】3日「草取り」岡田政雄=熊本市北区
 【佳作】20日「東京一泊4000円」中村薫=宮崎市
   ▽12日「閑話休題」宇都晃一=鹿児島県姶良市
   ▽13日「侍」増永陽=熊本市中央区

 「草取り」は、短い文章の中になんともいえない雰囲気が漂っていて、読後の印象はさわやかな気分になりました。「時は春、日は朝、朝は七時」で始まり「全て世は事もなし」で終わる、ブラウニングの詩に漂っている雰囲気を感じました。静謐という言葉がありますが、私たちの生活している騒々しくて猥雑な日常に、こういう静かで落ち着いた瞬間を持ちたいものです。
 「東京一泊4000円」は、東京のホテルのフロントで、カードを忘れて困っている青年に、支配人の示した好意に安堵したという内容です。その場に行き合わせて、助力しようかと逡巡する筆者の心理もよく表れています。安堵と共に、支配人の粋なはからいに、同じ年ごろの子を持つ筆者が親心を感じたという心理がうまく描かれています。
 「閑話休題」は、理容院での床屋さんとの何気ない会話ですが、後頭部にわずかに残っている白髪の様子で、人生を語ったところに感心しました。それを「波瀾万丈米粒みたいな人生の歴史」と、斜めに構えて言いきったところは、長年を生きた人の、大きくいえば、悟りでしょうか。気持ちのいい文章です。
 「侍」は、スポーツナショナリズムに対する批判の意見発表です。何もかにも「侍」をつけて美化するのは、一考した方がよい。侍がいかに窮屈なものであるかは、新渡戸稲造の著を読めば分かる。東京五輪も国家から離れてスポーツ自体を楽しめばよい。このように、世間とくに政府の行き過ぎた風潮に異議を申し立てできるのも、文章の力です。
 この他に、展覧会場から好きな絵を持ち帰って自宅で楽しむことを空想するという、自分なりの絵画鑑賞法を示す佐藤恵美子さんの「美術展」、再任用で小学2年生を担任し、トマトを育てた喜びが内容の白坂昭典さんの「ミニトマト」、絵手紙教室の画材に提供した蕗のとうを、娘婿にてんぷらにしてあげると持ち帰られたことへの嬉しさを表した岩本俊子さんの「いい話」を、楽しく読ませていただきました。
 鹿児島大学名誉教授 石田忠彦 2020/3/14 毎日新聞鹿児島版掲載




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