はがき随筆・鹿児島

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「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

忘れられたメガネ 

2018-08-30 15:15:24 | はがき随筆


 机の引き出しの奥から黒縁のメガネが出てきた。まさか。
 夫の老眼鏡だ。あの日、どうして棺に納めなかったのか悔やまれる。愛読していた藤沢修平の文庫本は入れたのに。
 夫はよく、メガネを置き忘れる人だった。「誰か俺のメガネを知らんかよ」。頭に掛けていることも気がつかず、皆で大笑いしたことがある。
 手に取ってそっと口づけしてみる。2年も前から誰の目にも触れずに、放って置かれたメガネだ。匂いなど残っているはずもない。手を伸ばせば届くところに置き、時折掛けてみる。今の私にちょうど合う。
 宮崎県延岡市 川ナハツ子(73) 2018/8/30 毎日新聞鹿児島版掲載

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