歩き始めてすぐに道は暗い森に入った。単独登山だったらこの山は少し不気味だな、と思いつつ、夫の背中を急いで追う。
やがて、沢のほとりで同年配の女性と会った。1人で偉い。夫も同感だったのか「おひとりですか? 大変ですね」と声をかけた。とたんに女性が怒った。
「一人でも二人でも古く距離は同じでしょうが」。ひやりと胸をすくわれた。私たちの言葉は適切ではなく、彼女を傷つけてしまったのだ。とっさの謝りが言えないうちに女性は去った。
木々の緑が濃くなると、数年前のあの苦い思いがむるにざわざわっと戻ってくる。
宮崎県延岡市 柳田慧子(75) 2020/8/1 毎日新聞鹿児島版掲載
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