はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

白谷雲水峡

2011-05-16 17:19:12 | はがき随筆
 白谷雲水峡に、4人で遠足の下見に行った。流れ落ちる滝、澄んだ水、整備された山道を登って行く。
 くぐり杉、七年杉、もののけの森……。たくさんの木々がぐんと根を伸ばし、空高く伸びている。ごつごつとした太い幹、穴の開いた幹、ぐねぐね伸びた枝と根っこ、たくさんのこけ類……。さまざまな姿でたくましく生きている。兄や亡き父にも見せたい屋久島の木々である。
 太鼓岩に登りついた。わあ、向こうの山には、まだ雪が残っている。目の前に広がる何とも言えない美しい風景。この山に登れたことが、うれしかった。
  屋久島町 山岡淳子 2011/5/16 毎日新聞鹿児島版掲載
写真は「もののけの森」アカショウビン提供

追憶

2011-05-16 17:11:45 | はがき随筆
 「先生、転勤の時、必ずタニワタリを持って行ってね」。卒業式の日、安夫たちは言った。
 大学を卒業し大隅半島東岸の中学校に赴任した私は、安夫たち2年B組23人の担任となった。豊かな自然の中で共に遊んだ私は彼らから多くを学ぶことになる。
 5月、安夫たちと山深く入り、渓流で終日過ごした。帰路「こよ、教室に飾っが」と言う安夫。そのオオタニワタリを古い箱火鉢に植え教室に置いた。卒業の日も安夫たちが丁寧にふいていたオオタニワタリ──。
 我が家の庭先の樹陰に、今も輝いている。
  出水市 中島征士 2011/5/14 毎日新聞鹿児島版掲載

涙&なみだ

2011-05-16 17:04:43 | はがき随筆
 大地震大津波の新聞テレビを見ると、もう涙である。涙なしには見られない。満杯になった貯金箱を義援の寸志として役所に届けた。時あたかも我が家に2年半、すみ着いていた猫のハナが車にはねられて逝ってしまった。車の通りが激しいので車に気を付けてねと、いつも言っていた。昨年4月19日の日記。「猫のハナ、顔を手で隠しネンネする可愛げ満点」と書いている。思い出し、涙である。
 私、80歳を迎えた誕生日。元気の体を与えてくれた父母に感謝。娘、孫たちやら9人におめでとうのお言葉をいただき、うれし涙いっぱいであった。
  大口市 宮園続 2011/5/13 毎日新聞鹿児島版掲載

忘己利他

2011-05-16 16:56:58 | はがき随筆
 平成10年5月。彼の熱意と情熱に動かされ、小学校親父の会発足。その後も自分たちの地域を考えて彼は精力的に動く。
 <俺、考えてはいるけど……行動してない>
 彼は自分を褒めない。善意を公言せず、失敗の弁明も行わない。 
 <俺、しゃべっちゃうな>
 物事を必ず人の営為の中で捉え自分の努力のなさを訴える。
 <俺、ぼやいて終わりだな>
 人は困難に遭った時、真の値打ちが分かる。彼には熱意と情熱、真の勇気と愛がある。
 <あんな風にいきられたらいいな。あんな男になりたいな>
 鹿児島市 吉松幸夫 2011/5/15 毎日新聞鹿児島版掲載

梅雨のはしり

2011-05-14 08:34:23 | 世の中、ちょっとやぶにらみ


田んぼの畦道を彩る緑が、ここ2・3日の雨で一段と生気を放つ。
遠くの山は、低く垂れ込めた雲に覆われ、さながら一幅の墨絵かと・・・。

よく降った。局地的豪雨で災害の心配もされたが、大きな被害もなく一段落したようだ。
稲にしてもレンコンにしても、この植え付け時期の雨は貴重である。
災害さえ起こさなければしっかり降ってくれと祈りたいほどの恵みの雨だ。

この時期、梅雨を前にして2日も3日も続けて降る雨を「梅雨のはしり」という。
はしりとは、物事のはじめとなったもの、先駆けのことである。

かつては、精一杯の事をやっていく中で、ふと気が付いたら、OOのはしり・OOの先駆け、といったような一歩先んじたことをやらかした時もあったように思う。
それが若さというものだったのだろうか。
ということは、そのような先駆け的な行動がほとんどなくなった今は、やはりそれなりの御年ということか。

中天高く光彩を放つ太陽でさえ、日暮れが近づけば柔らかく丸味を帯びた夕陽となる。高いつもりで実は低い教養をひけらかす愚を避け、後進の育成に手を貸そう・・・。

と、自ら気付いて欲しい人が、自分を含めて、世の中には意外に多いものだ。

ブログ「世の中ちょっとやぶにらみ」より
yattaro-さん


好きなればこそ「岩国検定」始動

2011-05-14 08:28:02 | 岩国エッセイサロンより
2011年5月12日 (木)
   岩国市  会 員   樽本 久美

昨年「岩国検定」を有志12人で立ち上げた。代表の沖さんはわが「岩国エッセイサロン」(新聞などに思い思いのエッセーを書く会)の代表でもある。その沖さんの呼びかけでメンバーが集まった。10人はサロンのメンバーだが、あと2人は歴史に詳しい人に加わってもらった。

チームワークは最高であった。代表が誰よりも動くので、皆自分のできることを手弁当で頑張った。資料集めから問題作成、ポスター貼りや受検お願いなど。私は仕事があるので、みんなが頑張っているのを横目でみながら、私のできることは頑張った。会場案内の文字を毛筆で書いたり、当日はカイロをはって会場案内など。

新聞社や地元のケーブルテレビ等も利用し、多くの人に岩国検定を知ってもらい、受検してもらった。ケーブルテレビの取材に顔がひきつり、なかなかいいコメントが言えなかったのもいい経験となった。信頼できる仲間がいたので成し遂げることができたのである。

今年は2年目。今まで以上に団結力が必要になってくる。皆忙しい時間をやりくりしての活動。好きでなくてはできない。大変だが、「みんなで達成した」ということは、言葉では言い尽くせないものであった。みんなの団結力で次の壁を乗り切っていきたい。

(2011. 05.12 朝日新聞「声」掲載) 岩國エッセイサロンより転載

大事な友・趣味

2011-05-12 17:30:02 | はがき随筆
 さつま狂句や川柳と向き合っているが、さっぱり上達せず、奥が深く悔しさが募ることも。でも続けられるのは脳のさび落としや刺激になり、ボケ防止になるという自覚があるからだ。
 昨年はたまたま、川柳で「照る日曇り日嵐もあって老い二人」、狂句で「俄客(にわかきゃ)き温(ぬ)っかビールい足(て)た氷(みず)」が月間賞に選ばれ感動を覚え、さらに新聞やテレビに投句を続け、採用にかかわらず継続を決意している。メモ帳と辞書を携え、忘却度が高いのでメモを心がけ、いったん句と取り組めば時がたつのも忘れる。今後も人生を豊かにする友・趣味を大事に生き続けたい。
  薩摩川内市 下市良幸 2011/5/12 毎日新聞鹿児島版掲載

自分を恥じた

2011-05-12 17:23:53 | はがき随筆
 娘さんへの思いをほほえましく感じながら、5日に掲載された伊地知咲子さんの「女の気持ち」を読んでいた。後半、娘さんが被災地へ応援に行くと聞いて伊地知さんは「寂しさが吹っ飛んだ」と。私は虚を衝かれたかのようにうろたえた。
 息子が福島へ派遣されると聞いた時、私は不安でいっぱいになった。そしてせめて息子が福島にいる間は原発に不測の事態が起こりませんようにと祈り続けた。
 なんという身勝手さ。私は自分の了見の狭さに深く恥じ入った。改めて伊地知さんの人柄に敬服させられました。
  出水市 清水昌子 2011/5/11 毎日新聞鹿児島県版掲載

天才に会う

2011-05-12 17:14:57 | はがき随筆
 山下清展が始まり妻と出掛ける。4時に起き愛犬遼太郎の運動をすませ7時前家を出る。待望の新幹線は心地よく運んでくれ、11時すぎ博多駅に到着、まず腹拵え。
 会う機会はきっとあると思いながら50年余りが過ぎてしまった山下清。代表作は貼り絵だが、油彩・水彩・ペン画・陶芸など僕たちの目を釘付けにする。貼り絵を見るのは初めてだが、重ねられる色紙の多種多様に驚く。さらに世に出る前の作品が保存されたことには感謝の気持ちが湧く。そして、感動の疲れかしら、それとも脱力感かしら、会場を出る時の率直な感慨です。
  志布志市 若宮庸成 2011/5/10 毎日新聞鹿児島版掲載

「プラスαの温かみ」

2011-05-09 10:43:56 | 岩国エッセイサロンより
2011年5月 9日 (月)
岩国市  会 員   林 治子

 川を渡ってくる風は冷たい。錦川沿いの遊歩道には通ってきた土手の街路灯は届かない。いつもは気がつかない山の上の家々の明かりが点々と。あたりはまだ真っ暗。夜明け前と言っても東の空は白みかけてもいない。頼りは懐中電灯の明かりだけ。

 遠くからぼーっと光が見えてきた。あっ、人だ。声をかける。「おはようございます」。「おはよう。今日は寒いね」。いつもはオウム返しに同じ言葉が返ってくるのに、違った。その瞬間、顔は見えないけれど温かいものが伝わってきた。ちょっと言葉を足すだけでこんな気持ちになる。

 (2011.05.09 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩國エッセイサロンより転載

バンコ

2011-05-09 10:31:33 | はがき随筆
 量販店から帰ってきた妻が浮かぬ顔をしながらつぶやいた。
 「バンコください」に店員さんが「何それ」という顔。ジェスチャーを交えながら「夏の夕涼みなどに使う板がこうなって……」の説明で「ああベンチですね」と依頼品を取り出した。
 「日本語が通じなくなったのかしら」と憤まんやる方なし。「それって日本語では縁台でバンコは鹿児島弁では」と言うと違うと言い張る。調べると英語のbenchはスペイン語でbanco(バンコ)。宣教師ザビエルらが薩摩などの地に残した言葉らしい。我が家では、バンコを絶滅危惧鹿児島弁と名づけた。
  鹿児島市 高橋誠 2011/5/9 毎日新聞鹿児島版掲載

楽しいエッセイ教室でした

2011-05-08 15:41:06 | アカショウビンのつぶやき
毎日ペンクラブ鹿児島・大隅地区の勉強会に行って来ました。
講師は、鹿屋私立図書館長・立石冨男先生です。


立石先生は、文芸誌「火山地帯」を主宰され、南日本文学賞ほか、いくつかの賞を受賞されたされた小説家です。

今日は、先生が文学の道に進まれた動機や今までの経歴などもお話しくださいました。
更に、エッセイを書く上での実践的な事項も学びました。
まず、本を読みなさい…と。そうなんですよねぇ、ああ恥ずかしい。

本を読むことで、言葉、文字を学び、表現力も磨かれるのです。
また自分の作品を第三者に読んでもらい、批評してもらう事も大事です。
そして、タイトルは作品の一部です。タイトルで第一印象が決まります。
うまい文章でなくてよいので、リズム感のある生き生きとした文章を目指しましょう。

質問の時間には、表記の問題とか、体言止め、比喩・直喩、推敲など具体的な事項についてお話しくださり、あっという間に2時間が過ぎていました。



企画、連絡、交渉とすべてをやってくださって運営員のT・政子さん、会計係のI・咲子さん、本当に有り難うございました。今回はペンクラブ会員以外の方が2名参加してくださり、総勢12でした。
 


自己紹介では、ご自分の思い出の作品を朗読してくださる方もあり、和やかな交流のひとときでした。








by アカショウビン


晩春の響き

2011-05-08 06:27:59 | はがき随筆
 ジョリジョリ、チルチル美しい響きのある声で朝昼夕訪れるカワラヒワ2羽。蜜蜂が採蜜するのを期して植えた菜の花も昨今ふっくらした実になった。
 「よく分かったのね、どうぞおあがり…」
 ジョリジョリが消えてしきりについばむ菜種は静かに揺れている。気づかず近くを通ると「ジョリッ」と一声残し電線へ飛び上がり、くちばしをふきながら私を見下ろしている。そして再びジョリジョリとお食事。
 こんな美しい晩春の中にいる私。どうぞ一日も早く東日本の被災地の皆さんの心が、体が、元気になりますように!
  鹿児島市 東郷久子 2011/5/8 毎日新聞鹿児島版掲載身

山バトに返事

2011-05-07 17:58:44 | はがき随筆
 竹林から山バトの鳴き声がする。「チュウチュウシタカ」の繰り返しで「チュウチュウマダカ」とも聞こえる。質問を受けている感じで、自己流に解釈すると、口づけのことなのか?
 高卒前「皆さん、バラ色の人生を」と申された国語の先生がいた。振り返り何色だったのか考える。数々の人たちとの出合いや別れがあり、偶然に神がコマを回され生涯を共にする男性と一路直進して善悪の出し合い明暗を知り尽くす。いや今からが深刻だ。降りかかる苦難に耐え、健康を願う多忙の毎日。
「チュウチュウマダヨ」と山バトに返事がしたい。
  肝付町 鳥取部京子 2011/5/7 毎日新聞鹿児島版掲載

10年のはがき随筆年間賞

2011-05-07 16:57:48 | 受賞作品
年間賞に山室さん
    病で他界  妻浩子さん受賞喜ぶ

 2010年の「はがき随筆」年間賞に伊佐市大口上町、山室恒人さん(故人)の「得度式」(昨年1月12日掲載)が選ばれた。表彰式は22日午後1時から、JR鹿児島中央駅前の鹿児島市勤労者交流センターである。山室さんの妻浩子さん(64)に執筆の背景などを聞いた。
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 山室さんが「はがき随筆」に投稿し始めたのは、妻浩子さんが08年5月度の入選作に選ばれてMBCラジオで作品が紹介されたことがきっかけ。同年7月から投稿を続け、ほぼ毎月掲載される常連となった。
 受賞作は09年3月上旬、熊本県人吉市内の禅寺で住職の娘さんの得度式に出席した時のことをつづった。
 「与謝野晶子が訪れたことがある古いお寺。庭が広く趣があり、夫にとってもいやしの空間でした」と浩子さん。「住職さんの人柄からキリスト教関係者も出席されました。参加者は二十数人。こぢんまりしたものでした」と思い出を語る。
 山室さんは、その後、体調を崩し、検査入院などを繰り返しながら、書きためていた随筆を投稿。昨年6月、悪性リンパ腫のため63歳で亡くなった。
 はがき随筆に掲載された作品は22編。未投稿のまま残された作品が12編ある。浩子さんは「年間賞に決まった作品も含めて、一周忌を前に作品集をまとめたい」と受賞を喜んでいる。


 年間賞は、毎月の入選作の中から選びました。
 山室恒人さん「得度式」▽出水市武本、中島征士さん「走り雨」(4月17日)▽出水市高尾野町柴引、清田文雄さん「ペットレス」(5月26日)▽薩摩川内市宮里町、田中由利子さん「雷」(7月30日)▽霧島市霧島大窪、久野茂樹さん「じいじの涙」(12月10日)を候補作とし、その中から「得度式」を年間賞としました。
 「得度式」は、禅寺の得度式に参列した経験を綴ったもので、禅尼になる娘さんの印象の鮮やかな描写に優れたものを感じました。
 「走り雨」は、雨宿りをしながら青少年時代の雨宿りの甘美な記憶をたどった内容で、傘の中での印象の描写が鮮明です。「ペットレス」は、愛犬の一周忌になっても忘れられない悲しみを描き、黒毛だったので黒アゲハににさえ心が痛むという心の揺れが、みごとに描かれています。
 「雷」は、中学の時たんぼで激しい雷雨に遭い、母親に抱いて護ってもらった時の記憶が鮮やかに書かれていて、その時の母の鼓動の描写が優れています。「じいじの涙」は、お孫さんが帰ってしまった後の寂しさが、彼の細かい動作を思い出す度に募ってくるというもので、あけすけな文章が好印象です。
 以上はそれぞれに魅力ある文章ですが、「得度式」は、話題の珍しさ、娘さんの可憐さ、それに何よりも人生を感じさせるところを選びました。
 (鹿児島大学名誉教授・石田忠彦)

◆ 年間賞作品
得度式
私はわくわくしながら禅寺の得度式に立ち会った。面白いことに参列者には、神父やシスターもいる。きょろきょろ見回していると、主役の娘さんがあいさつに現れた。あっと私は驚いた。頭頂部に少し黒髪を残し既にテカテカ光っている。
 儀式は長崎の和尚さんが指揮した。白装束の娘さんの一連の身の運びが軽やかで、まるで舞っているチョウのように見える。やがて残りの髪がそり落とされ、黒の法衣が授けられると、厳かな中に式は終わった。
 祝いの席で、剃髪前にパーマをかけたと笑う禅尼の顔に、私は女心を垣間見た気がした。

  伊佐市大口上町 山室恒人