絵話塾だより

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2023年4月29日(土)文章たっぷりコース第4期・11回目の授業内容/高科正信先生

2023-04-30 19:26:40 | 文章たっぷりコース

今期の文章たっぷりコースも後半に入り、これからしばらく「子どもの本について」というテーマの授業を続けます。

大人と子どもの本はどこが違うのか。
一般的に大人の本は問いかけが、子どもの本には答えが書かれていることが多いようです。
子どもの本は「向日性」の文学と言われ、ストーリーの中でいろいろなことがあっても、最後はハッピーエンドで終わって「あーよかった」と思えるような性質を持ちます。
中にはそうでないものもありますが、人生を明るく前向きに捉えられるような内容で、決して読んだ後で不安にならないように書かれています。

子どもの本には強いメッセージ性があるものが多く、メッセージの中身は多種多様です。
例えば「どうしたら幸せになれますか?」「どうしたら友達ができますか?」というような質問に対する、さまざまな角度からの答えが書かれているのが、子どもの本です。そこにこそ力を注いで書いているのが、先生を含めいわゆる子どもの本の作家です。

お話の中にあるとても大切なメッセージに「人を愛する」「愛とは何か」ということがあります。
今日は、「愛」をテーマにした子どもの文学を紹介してくださいました。

1907年生まれの英国の作家ルーマー・ゴッデン(映画「リトル・ダンサー」の元となった「バレエダンサー」の作者)が書いた『ねずみ女房』(福音館書店)は、家の中の世界しか知らないネズミの奥さんが、家主が鳥籠で飼い始めたキジバトと知り合い、仲良くなって、彼を助けて鳥籠の扉を開け、森へ返してあげるという話です。
ハトを助けると、二度と会えなくなります。それでも彼を逃すという行為は、見返りを求めない愛の原型ではないでしょうか。

ルーマー・ゴッデン/石井桃子 『ねずみ女房』 福音館書店(1977) https://www.fukuinkan.co.jp/book/?id=288

次は、シェル・シルバスタイン『おおきな木』です。70年代に、ほんだきんいちろう訳で出版されたものが、40年ほど経って村上春樹の訳で再販されました。
この作品の原題は『THE GIVING TREE』といい、おおきな木は自分の持っているすべてのものを与え続けることが嬉しいというお話です。

シェル・シルバスタイン『おおきな木』ほんだきんいちろう訳(1976)篠崎書林/村上春樹訳(2010)あすなろ書房 http://www.asunaroshobo.co.jp/home/com/index.html

山下明生の『島ひきおに』(偕成社)は、人間と仲良くなりたい鬼が自分の住んでいる島を引っ張って別の島へ行くものの、どこへ行っても誰も遊んでくれず、それでも鬼は遊んでくれる相手を探していつまでも島を引き続けるというお話です。
浜田広介の『泣いた赤鬼』は、他人の自己犠牲や献身で異形のものと仲良くなる結末ですが、この二つの作品は全く違います。
愛を描くときは、表面的に「仲良くなりました」で終わるのではなく、もっと深く掘り下げる必要があるのではないでしょうか。

山下明生/梶山俊夫『島ひきおに』偕成社(1973)https://www.kaiseisha.co.jp/books/9784033300207

アーノルド・ローベルの『がまくんとかえるくん』(文化出版局)では、二人ののんびりした友情に、人と人が深いところでつながる大事なことの原型が描かれていおり、子どもの文学にはそれが貫かれています。
そして、大人・子どもに関わらず、世の作家たちは何を書けば自分のメッセージが読者に伝えられるのかを考えながら書いています。
これは、書くことの本質と結びついている大切なことです。

休憩を挟んで、後半は教科書『文章のみがき方』(辰濃和男 著/岩波新書)の「Ⅲ 推敲する」から「2. 削る」「3. 紋切り型を避ける」のところを交代で音読していきました。

「2. 削る」の冒頭には最初に太宰治の言葉が引用されていて、それは「文章の中のある箇所を切り捨てたら良いか残す方が良いか、途方に暮れた場合は必ず切り捨てること」という内容で、そのことについての補足が書かれています。削ることで残った部分をきわだたせることができ、主題が浮かび上がってくるので、削れば削るほど文章の本質が明らかになってくるというのです。
まずは予定の文字数より長めに書いて、読み返した時に同じ言葉や言い回しが続いていることに気づくと、ザクザク削って書き直します。それはある種の快感である、と辰濃さんは言っておられます。

例えば、文章の冒頭部分。どれだけ手間暇をかけて書いたとしても、後で読み返した時にそこが良くないと感じたら、迷わず書き直しましょう。
物語の書き出しは大切です。例えば書店で本を選ぶとき、手に取って読んでみるのは書き出しの部分でしょう。ここに魅力を感じたら、レジに持って行って、家に持ち帰ってもらえることになるので、最良の言葉を見つけて書くようにしましょう。

「3. 紋切り型を避ける」では、「雲ひとつない青空」「抜けるような空」など、皆がよく知っている使いやすい言葉・表現はできるだけ避け、形容詞の多用も避けるようにしましょう。そうすることで、自分らしい文章のスタイルが完成に近づくでしょう。

参考として、鶴見俊輔の『文章心得帖』(ちくま学芸文庫)から「三つの条件」の箇所を見ていきました。
鶴見氏にとっての理想の文章は、①誠実であること ②明晰であること ③わかりやすいこと だそうです。
文章を書く時は、いま一度上記のことに気をつけて書いていきましょう。

それから、前々回の課題になっていた「うんと幼い時の最初の記憶」の参考として、姫野カヲルコの『ちがうもん』(文春文庫)のあとがきから、本人によるものと、辰濃和男による解説の箇所を見ていきました。

姫野氏もそうだと書いているように、クラスの皆も今回の課題を書くにあたって、自分たちの記憶のカケラを引っ張り出し、たぐり寄せて書いたことでしょう。そうするうちに、思いもかけないことが出てくることがあります。それは一体どういうことか、根っこには何があるのかを考えて書いてもらうための課題でした。

今回の課題は、「絵本のテキストを書く」です。絵本ですから、創作でお願いします。
書籍は紙の取り分の関係から、8の倍数のページで作られています。絵本の場合は16とか32ページで、2ページが1見開き(場面)として構成されています。
そのうちの扉と奥付の部分には文字が入りませんので、−2ページで構成される見開きに入る文章を考えてください。(絵本の場合11か15見開きが多いです)
1見開きごとに番号を打ち、次の見開きに進む前に行を少し開けて、ページをめくっている感じを出してください。
文章はすべてひらがなで書き、必要なら場面の説明(どんな絵が入るのか等)をト書きで入れてください。
※ 実際の絵本のようなわかち書きにはしなくても良いです。
文章量は、先生の場合は15見開きで7〜8ページから10枚程度で書きますが、内容によって増減しても大丈夫です。
テーマは「木」。木は動きません。そんな木が登場する、木にまつわるお話なら、何でもかまいません。

次の授業は6日で、日にちがあまりありませんので、提出は次々回の20日でお願いします。

今期の授業では、今回初めての試みになります。最初ですので、そんなにうまくいかなくても構いません。とにかく物語、木の物語を書いてください。
どんな木か、それは自分で考えてください。難しいかもしれませんが、とにかく一度やってみてください。

よろしくお願いします。

 


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