この日も、よもやま話から始まりました。
最近は栗の花が咲いているということから、「栗花落」と書いて「つゆり」と読む名字があることを教えていただきました。
なぜ「つゆり」なのかというと、栗の花が落ちる頃に梅雨入りするからなんだそうです。
…などなど、日本語はおもしろい、趣深い、味わい深いというお話でした。
いつもはテーマについてのお話があってから、本を紹介していただくのですが、この日はまず絵本の読み聞かせから始まりました。
最初は『おとうさんのちず』(作/ユリ・シュルヴィッツ、訳/さくまゆみこ、あすなろ書房 2009)。
1935年ポーランドのワルシャワに生まれた作者は、子どもの頃戦禍を逃れて家族であちこちの国へ逃げたといいます。
その体験を元にした本作は、人は極限状態にあっても想像の力で豊かに生きることができるという内容です。
ウクライナで今同じようなことが起こっています。80年経っても人間はちっとも賢くなっていないのですね。
※ 作者のシュルヴィッツは『よあけ』(訳/瀬田貞二、福音館書店 1977)で有名です。
『おとうさんのちず』(作/ユリ・シュルヴィッツ、訳/さくまゆみこ、あすなろ書房 2009)https://www.ehonnavi.net/ehon00.asp?no=28562
次は『水曜日の本屋さん』(文/シルヴィ・ネーマン、絵/オリヴィエ・タレック、訳/平岡敦、光村教育図書 2009)です。
こちらも、戦争を体験したおじいさんと本屋さんで出会う女の子、店員さんのクリスマスのお話です。
『水曜日の本屋さん』(文/シルヴィ・ネーマン、絵/オリヴィエ・タレック、訳/平岡敦、光村教育図書 2009)
http://www.mitsumura-kyouiku.co.jp/ehon/83.html
最後は『ゼラルダと人喰い鬼』(作/トミー・ウンゲラー、訳/たむらりゅういち・あそうくみ、評論社 1977)です。
子どもを食べてしまう鬼に囚われたのに、得意の料理で手なずけてしまう少女のお話です。
※ 作者のウンゲラーは『すてきな三にんぐみ』(訳/いまえよしとも、偕成社 1969)で有名です。
『ゼラルダと人喰い鬼』(作/トミー・ウンゲラー、訳/たむらりゅういち・あそうくみ、評論社 1977)
https://www.hyoronsha.co.jp/search/9784566001114/
この3編に共通しているのは「希望」ではないかと高科先生はおっしゃいます。
福音館書店の創始者・松居直(ただし)は、NHKの講座の中で「人間が生きていくために必要なものは、①水 ②空気 ③言葉である」と言っているそうです。もちろん食べ物も大事ですが、シュルヴィッツは想像することが大事であり、それは言葉を話す人間だからできることではないかと『おとうさんのちず』で示しているのです。
こうして見ると、人間はなかなか捨てたもんじゃない、生きていることは素晴らしいこと、と思えてきます。
次回の授業では、その辺りのことを宮崎駿の世界観を絡めてお話してくださるそうです。楽しみですね!
ここで、工藤直子の『こころはナニで出来ている?』(岩波書店 2008)から、「秘密の引き出しに入れておいた “友人” たち」のところを見ていきました。
1935年台湾に生まれ、戦後博報堂に入社して日本初のコピーライターとなり、後に詩人になった彼女が昔持っていた空想の世界について書かれたこの本は、彼女の作品の中に出ているキャラクターは皆この空想世界に住んでいた昔なじみだったといいます。
彼女も子供時代に戦争を体験しており、この本には想像の力で困難を乗り越えていったその根っこの部分が描かれているのです。
『こころはナニで出来ている?』(岩波書店 2008)https://www.iwanami.co.jp/book/b256107.html
休憩を挟んで後半は、今期のテキスト『文章のみがき方』(辰濃和男 著・岩波新書)です。
この日は「Ⅲ. 推敲する」の続きで「8. 流れを大切にする」と、「Ⅳ. 文章修行のために」から「1. 落語に学ぶ」を見ていきました。
文章の流れに関しては、①平明、そして明晰であること ②こころよいリズムが流れていること ③いきいきとしていること ④主題がはっきりしていること 他にもあるでしょうが、この4つがクリアされていれば十分とのこと。
落語の方は、昔の文豪たち(夏目漱石・正岡子規・二葉亭四迷・太宰治・坂口安吾など)もその影響を受けていたと例を挙げており、
今でも落語から学ぶことは多い、とまとめています。
その流れから、高科先生のご友人の児童文学作家・岡田淳さんが書いた『ふるやのもり』(「孫の心をわしづかみにするお話―何度でも夢中になれる読み語り』増田善昭 PHP研究所2014より)を紹介していただきました。
岡田さんは漫画も描くし、大学の時落語研究会だったということで、文章を書く時に落語を参考にしていると思われます。
「孫の心をわしづかみにするお話―何度でも夢中になれる読み語り」増田善昭(PHP研究所2014)
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I025645510-00
前回の課題〜「木について」絵本の文章を書く〜の返却に伴い、片山健の『きはなんにもいわないの』(学研2005)を紹介していただきました。「木」そのものではなく、お父さんが木になって子どもと遊ぶお話で、子どもが話しかけるのに「きはなんにもいわないの」とだけ返す、というものです。
『きはなんにもいわないの』 片山健(学研プラス 2005) https://hon.gakken.jp/book/1020242100
その後、高科先生が書いた木についての絵本テキストの原稿を見せていただきました。同じ内容でも、視点が変わると文体も変わったり、推敲の後や、清書してだんだん仕上がっていくようすが知れて、興味深かったです。
さて、今期の授業もあと2回を残すのみとなりました。
今回の課題は創作です。テーマは「おもちゃ」「おもちゃ箱」または「(おもちゃを所有している)子ども」などです。
原稿用紙5枚程度(実質1500字)の短編で、対象は基本的には文章に書かれているおもちゃで遊ぶような子どもと考えてください。
今回は絵本のテキストではありませんので、とくに場面数のしばりはなく、全体を通してどんなストーリーにするかを考えてください。
提出は、次回7月1日の授業の時です。よろしくお願いします。