世に名著といわれる本は数多いが、私が読んだ範囲で本書は名著
のベスト5に入るだろう。
本書を単行本で読んだのは学生時代だから、もう30年以上前にな
る。このたび、じっくり読み直し、感動を新たにした。
小泉信三の長男信吉(しんきち)は大正7(1918)年生まれ。今
にして思えば、信吉は私の父と同い年だった。
昭和16年春、大学卒業後、三菱銀行に就職、ほどなくして子供の
頃から憧れていた海軍に進んだ。(三菱銀行は休職。)
昭和17年10月22日南方で戦死した。25歳であった。
本書は、信吉の父小泉信三が慶應の塾長を勤めるかたわら、信吉
の思い出を綴ったものである。悲しみを抑えた筆致がすばらしい。
小泉信三は、私の息子と同じ年代(やがて25歳)のわが子を失い、
現在の私と同じくらい年代(信三55歳)で本書を書き上げた。
小泉信三が、信吉の出征にあたって書いた信吉宛の手紙(文庫p67)
はまこと涙なくして読むことはできない。
本書を学生時代に読んで印象に残っている言葉は、「年長者は自
分が青年だった時の心理を忘れ勝ちである」(p23)。
いかにも小泉信三である。
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