人生ブンダバー

読書と音楽を中心に綴っていきます。
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あらえびす『名曲決定盤』

2008-08-17 05:09:49 | 読書
先日、モーツァルトを聴きながら山本一力『あかね空』を読んでいたら、野村胡堂
になった気分になった。胡堂Who? 野村胡堂はもう45年前に亡くなったので、若い
方はご存じないかもしれないが、『銭形平次捕物控』の作者であるといえば通じる
かもしれない。

本職は報知新聞の記者だった。胡堂先生(本名野村長一(おさかず))、音楽評論
家としても有名で「あらえびす」の名前でその評論を書いた。あらえびす著『名曲
決定盤』(初版昭和14年。現中公文庫)は名著の中の名著である。戦前にSPレコ
ード1万枚を収集したといわれている。

最近は若い音楽評論家も出てきているが、きっちりした文章力、幅広い表現力とい
う点ではやや劣るのではないだろうか。

その点、あらえびすの文章は格調高い。例えば、指揮者トスカニーニを評して、
「トスカニーニは1867年生れで、今年71歳の高齢であるが、厳然として世界の大指
揮者中の大指揮者として、その威容を保っているのは偉とすべきである」という表
現は少なくとも私には真似ができない。

また、フルトヴェングラーでは、「フルトヴェングラーの指揮振りは、ほぼニキシ
ュの指揮法に則(のっと)ったものであるが、もう少し細部まで神経の行きわたっ
た、近代人らしいデリカシーを持ったもので、ニキシュを団十郎としたら、フルト
ヴェングラーは恐らく吉右衛門というところであろう」と書いている。

テレビもビデオもない時代、音も今に比べれば悪いSPの時代に、これだけのこと
を書いていた人がいたことは一種の驚きである。

さいごに本書の、感動的な巻頭言の一説をご紹介しておこう。
「音楽を愛するが故に、私はレコードを集めた。それは、見栄でも道楽でも、思惑
でも競争でもなかった。未知の音楽を一つ一つ聴くことが、私の取っては、新しい
世界の一つ一つの発見であった。」




追記;昨日の北京五輪 陸上100m決勝のボルト(ジャマイカ、21歳)は驚異的な
走り方(横を見て)で、驚異的な速さ(9.69秒/世界新記録)で走った。ブンダバ
ー!である。

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