人生ブンダバー

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歴史秘話ヒストリア「 ”天皇の先生”になった男 小泉信三」(長文)

2019-01-07 05:00:00 | 読書

いささか旧聞に属するが、昨年12月12日(水)22時25分からNHK
(総合)で「歴史秘話ヒストリア ”天皇の先生”になった男 小泉信三
 『象徴』とは何か」が放送された(→こちらこちら)。

(注)
私の購読している新聞の番組表では「歴史ヒストリア 天皇陛下の先
生役--小泉信三・波乱の人生 テニスコートの恋」と表記されてい
た。

番組表の表記は、もしかすると、新聞によって多少違うのかもしれな
い。



当番組に刺激を受け、12月に秋山加代・小泉妙『父 小泉信三』、秋山
加代『叱られ手紙』(いずれも文春文庫)を新たに購入。
単行本の発売は、前者が昭和43(1968)年、後者が昭和56(1981)
年である。

秋山加代さんは大正11(1922)年生、小泉妙さんは大正14(1925)
年の生まれだ。
私から見れば、小泉信三は祖父母の世代であり、加代さん、妙さんは
母や叔母の世代だ。
ちなみに、(以前どこかで書いたが)戦死した長男の信吉さんは私の
父と同じ大正7(1918)年生まれだった(→こちら)。


両書ともに女性らしい、「きめ細やかな」情にあふれる文章だ--と
ここまで書いて、念のため、辞書を調べると、「きめ細か」や「細
(こま)やか」という言葉はあるが、「きめ細やか」という言葉はな
いことを初めて知った。「国語」の時間にボーッとしていたことを思
い出す。

「細やかな情にあふれる文章」と言い直そう(「--歳を取れば取る
ほど知らないことが増えてくる」)。


『父 小泉信三』
加代さんの随筆は、冒頭から「最後の誕生日」、「兄・信吉」に涙々
だ(電車内で読むときには注意が必要?)。

「空襲と父の負傷」には、小泉信三が東京大空襲で大やけどを負った
時の様子が詳しく書かれている。

続く「祖母と父のこと」には脳軟化症(現在では「認知症」にあたる
のかしらん。)のお祖母ちゃんのことが多少ユーモラスに綴られてい
る。加代さんが一生懸命お祖母ちゃんに「お付き合い」(介護)する
様子もほほえましい。

「エリのこと」
小泉信三のただ一人の孫、エリちゃんは、先天的な心臓病で、昭和27
年2月に満2歳10か月で亡くなった。そのことも詳しく書かれている。
小泉信三はそれを機にクリスチャンの洗礼を受けたが、小泉信三の葬
儀の時にそれを知った人も多かったという(--今は手元にないが、
どなたかが小泉信三全集の「月報」で書いておられた。たしか)。


妙さんの冒頭文「父のこと」
 父母が結婚して五十年。銀婚式の直後出征する兄への手紙に、
 「お母様のこと、加代、タエのことは必ず引き受けた」
 と書いた父は、それからちょうど二十五年生きて、兄との約束を果
 たしたのである。
には、何か、ジ~ンとくる。

「晩年の日常」
 新聞は・・・・・・自分の原稿は繰返し読んだ。自分のばかり、よくもそ
 う熱心に読めるものだと思って、「面白い?」と聞くと、「ええ、
 なかなか良いことを言ってますね」と答える。
私も毎朝、自分のブログを何度も読み返すので笑ってしまう。
私の場合は、読後、ブログに若干手を入れたりすることもあるけれど。


これらの本を読むと、「生身の人間」としての小泉信三が浮かび上が
る。好き嫌いがはっきりしていて、家庭内では嫌いな人の悪口を言う
こともあったようだ。

 私たちが成長してからであるが、
 「オイ、何かスキャンダラスな話をしないか」
 などと、わざと言い出し、誰かの悪口を言い始める時、まず、言う
 こと自体が嬉しくなって、口の端に、押さえきれぬ意地悪な微笑が
 盛り上がってくる。
 それは、何となく、蟹の甲羅の上の筋に似ているので、私と妹はい
 ち早くそれを察知して、
 「あ、蟹の甲羅が出た」
 と叫ぶ。父はそれをごまかして、
 「いいや、そうじゃありませんよ。しかし、君たちは何かねえ、あ
 の人を正直な人間と思うかい」
 などと始める。
 「意地悪、いけません。カニの甲羅ですよ」
 と私たちはやっつける(「父・伯母・私」)。

「電話」も、ユーモアが好きだった小泉信三の姿が見事に描かれている。



『父 小泉信三』と『叱られ手紙』(文春文庫版)



こちらは小泉信三の次女妙さんの聞き書き。
妙さんは、先日の放送でもお元気にインタビューを受けていた。

戦後、宮内庁長官を望まれた時(昭和23年)に、小泉信三は、病体で
あること、反マルキシストだから、皇室にご迷惑をおかけすることが
あるといけないと断った話なども出てくる。

たしか、小泉信三全集の「月報」で読んだが、氏は、「右翼団体」か
らの講演依頼は「止めておきましょう」と受けなかったという。

氏には、高い見識があった、と言えるのではないかしらん。



新版を購入。
本書の冒頭解説論文「現代の日本と日本人へのメッセージ(楠茂樹、
楠美佐子)」がおもしろい。

あらためて読み直すと学生時代に読んだ時とはまた違った「発見」が
ある。


『共産党宣言』の冒頭は、
「今日までのあらゆる社会の歴史は、階級闘争の歴史である」
だが、
本書は、
「問題は生産の不足である」
で始まる。

 (注)
  練りに練った結論を先に書くので、分かりやすい。
  氏はまた、別論文で、いきなり「要は暴力を認めるのか」と書い
  た(出典が思い出せない[涙]。探してみよう)。

続くのは、
「分配上の問題は無論あるが、それよりも何よりも生産が絶対的に不
足していることは争う余地もない」
である。

本書にいわく、
「マルクス、レエニン主義に対する著者の立場は、既に読者に知られ
ていることと思う。私は多年来反対陣営に属するものと目されている。
ただ私は、マルクス、レエニン主義を批判するに方(あた)って何よ
りも厳正の一事を心がけ、証拠なくして断定することは最も慎んだ」。

社会党の参院議員だった木村禧八郎(→こちら)いわく、
「(小泉)先生がマルクスを批判する場合、いかにマルクスを正しく
理解しようと努力したか、そしてその態度はいかに真摯であったかが、
よくうかがうことができましょう」(小泉信三全集「月報」)


すべて「狂信的(ファナティック)」はよろしくない。
「cool head but warm heart」は、経済学者アルフレッド・マーシャ
ルの言葉だ。小泉信三にも同じことが言えるのではないかしらん。


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