早くも8月末。夏休みも終わりだ。読書感想文の宿題を・・・・・・。
毛沢東関連本を初めて読んだのは学生時代で、中嶋嶺雄氏の名著
『現代中国論--イデオロギーと政治の内的考察』だ。その後も、何
冊か読んできた。
本書は、『ワイルド・スワン』の著者が「十余年にわたる調査と数百人
におよぶ関係者へのインタビューにもとづいて書き上げた」ものだと
いう。
文庫本にして、1,470ページを超える大書だ。これを読むには、1ペ
ージ1分として、1,470分=24.5時間かかることになる。
帯には、「建国の英雄か、残虐な独裁者か」とあるが、無論、著者は
後者と言いたいのだろう。
朝鮮戦争(--私が生まれた年に勃発。当時は「朝鮮動乱」と言わ
れた)は、スターリンの承認の下、金日成が始めたものだが、途中か
ら毛沢東が「援軍」を送った。中国に人民はいくらでもいるとばかり、
大変な「人海戦術」だった。
本書によれば、「中国は300万以上の兵員を朝鮮戦争に投入し、そ
のうち少なくとも40万人が死亡した。ソ連の公式文書は、中国人死
者数を100万人としている」という。
ことほど左様に、毛沢東は、人民はいくら死んでもなんともない、へ
っちゃらという考え方の持ち主だったようだ。
1934年から始まった「長征」の実態も垣間見ることができる。
58年からの無謀な「大躍進政策」(--毛沢東がソ連のフルシチョフ
に触発されたもの)では、大混乱に陥り、本書によれば「大躍進と大
飢饉の4年間で3,800万人近い人々が餓死あるいは過労死した」
と言われている。
65年から始まった「文化大革命」は、毛沢東による劉少奇ら「実権派」
追い落としのための権力闘争だった。
余談だが、これまた大混乱となった文化大革命を、安藤彦太郎(1917
-2009)早大教授や新島淳良(1928-2002)早大助教授は、雑誌の
『世界』や『朝日ジャーナル』で「礼讃」していた。
日本の学生過激派なども毛沢東の「造反有理」というスローガンを掲
げていたのを記憶している。「礼讃」は「蔑視」の裏返しである。
65年~66年は、私の中3、高1時代で、「文化大革命」のニュースを
覚えていないが、早々にこれは権力闘争だと見抜いた人は偉かった、
と言えるのではないかしらん。
*66年、北京市長の彭真が解任された時点で、産経新聞の柴田穂
(1930-1992)記者は「これは権力闘争だ」と叫んだという。
柴田記者は、壁新聞を読み、中国から追放された。
*川端康成、石川淳、安倍公房、三島由紀夫が、文化大革命への
抗議声明を発表したのは、67(昭和42)年2月である。
71年の林彪事件も、文革に続く、毛沢東と林彪の権力闘争だ。
また余談となってしまうが、この時も、その真実を報道する姿勢を見
せていたのは、駐在員のいない産経新聞であり、特派員を置く朝日
新聞などは何も起きていないなどと報道していた(朝日新聞の広岡
社長はその姿勢をjustifyすらしていたと記憶している)。
毛沢東は、冗談が好きだったようだ。本書にもいろいろな場面で、毛
沢東の悪い冗談が出てくる。昔、社会党の佐々木更三委員長だった
か、日本が中国を侵略し、申し訳ないと言ったことに、毛沢東は、全
然そんなことはない。日本の軍国主義があったから中国共産党が天
下を取れたのだという趣旨のことを言っていた(昭和39[1964]年)。
毛沢東がそうなのか、独裁者がそうなのか、本書を読めば読むほど、
ひと言でいえば、とにかくハチャメチャな人物だった、と言えるだろう
か。
今の中国に関心がある人は、好きであれ嫌いであれ、一読する必要
があるだろう。
(参考)
<毛沢東年表>
1911(18歳)辛亥革命
1921(28歳)中国共産党創立
1934(41歳)長征開始
1935(42歳)遵義会議
1937(44歳)盧溝橋事件
1945(52歳)太平洋戦争終戦
1946(53歳)国共内戦
1949(56歳)中華人民共和国建国宣言
1956(63歳)「百花斉放百家争鳴」運動
1956(63歳)チベット動乱
1957(64歳)反右派闘争
1958(65歳)大躍進政策 →大飢饉
1965(72歳)文化大革命
1971(77歳)林彪事件
1976(82歳)死去
<毛沢東とその周辺の人物>
スターリン;1878/12~1953/3(74歳没)
董必武;1886/3~1975/4(89)
朱徳;1886/12~1976/7(89)
蒋介石;1887/10~1975/4(87)
毛沢東;1893/12~1976/9(82)
葉剣英;1897/4~1986/10(89)
周恩来;1898/3~1976/1(77)
彭徳懐;1898/10~1974/11(76)
劉少奇;1898/11~1969/11(70)
彭真;1902/10~1997/4(94)
王明;1904/4~1974/3(69)
鄧小平;1904/8~1997/2(92)
陳雲;1905/6~1995/4(89)
博古;1907/6~1946/4(38)
林彪;1907/12~1971/9(63)
江青;1914/3~1991/5(77)
なお、本書、p419に、
張作霖爆殺事件は一般的には日本軍が起こしたものとされている
が、ロシアの情報筋は、最近になって、事件は実際にはスターリン
の命令にもとづいてナウム・エイティンゴン(のちのトロツキー暗殺
の責任者)が計画し日本軍の仕業に見せかけたものであると主張
している。
との記述があるが、これは歴史学者には受け入れられておらず、
「?」マークだ(→こちら)。
※本書の原書“MAO”(2005)は加筆、削除、修正され、2007年改
訂版が出版されている。本文庫版もそれに基づいて翻訳単行本が
加筆、削除、修正されている。
『真説 毛沢東』(講談社文庫)
中国関連本
毛沢東(安藤彦太郎訳)『実践論・矛盾論』(角川文庫)
学生時代、個人的に読んだというか、少しく「研究」したものだ。何で
あれ、どんなものか、原典を読まないとコメントできないと思って読ん
だものだ。
本書、『矛盾論』(1957/2/27)p130には
非マルクス主義の思想にたいしては、どんな方針をとるべきである
か。はっきりした反革命分子、社会主義事業を破壊する分子につ
いては、話は簡単で、かれらの言論の自由を剥奪(はくだつ)すれ
ばよい。
などとある。
「反革命分子」と判断するのは毛沢東かな?
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