先日のNHKラジオ「石丸謙二郎の山カフェ」にゲストで出ておられた山岳図書編集者神長幹雄さんのお話から、ひさしぶりに「ク・シ・ダ・マ・ゴ・イ・チ(串田孫一)」の名を聞いた。
登山家・文学者・哲学者・詩人・随想家・山岳誌「アルプ」の創設者であり主幹・・あまりに広大で奥深くこの世界を見つめたひとであるので、いわば「近寄りがたい存在」であり、あまり熱心な読者とは言えなかったが、それでも学生時代に山に登っていた頃、本屋さんで、薄っぺらだけれども滋味豊かな「アルプ」を不定期に買い求めては読んでいた記憶があり、その中に串田さんの高邁な文章も必ず入ってのだろう。
東京から離れる時、ほとんどの書物を処分したからだろうか、もう我が家には一冊の「アルプ」も残っていないので串田さんがどんな文章を書いていたのか忘れてしまったが、彼の文章を読むたびに感じた自然に関する凛とした研ぎ澄まされた感覚だけは残っていた。
神長さんが串田さんのことを思い出させてくれたので、串田さんが2005年に亡くなってから3年後に出版されたという「アルプ 特集串田孫一 ALP 0 2007-7」(山と渓谷社)というあの当時の「アルプ」と同じような表紙(串田さんのカットだった)だがずっと厚い350頁ほどの本を図書館から借りてきて読み始めた。串田さんの文章も少し入っていて懐かしく読ませていただいている。
その本の序は詩人田中清光さんの「串田孫一さんの宇宙(コスモス)を歩く」と題されたエッセイだが、彼の記述から「山の絵本」というFM東京(いまのDateFM)の番組のことを思い出した。これはバロック音楽を中心としたクラシック音楽と串田さんご本人による詩の朗読やトークだけの30分ほどの番組であり。たしか日曜日の朝7時30分から流れていた。
その番組も若かりし頃、とくに北海道や青森で働いていた頃に不定期だが山に行く車のカーラジオや家で朝ご飯を食べながら聴いていた記憶がある。田中さんの記述で分かったのだが、この「山の絵本」という番組は、なんと1965年から1994年までの30年間に1500回も休まずに放送されたとのことである。
オイラの聴いた「山の絵本」は、1500分の50にも満たないのかもしれない。たしか北海道でも青森でも仙台でも民放のFMでは流れたいたから東京から離れても聴いていたが、毎回熱心にエアーチェックするというヤカラではなかったので、高い山の1合目付近を歩いている程度のリスナーだったのだろう。
それでもあの串田さんの落ち着いた声とバロック音楽はすこし記憶に残っていて、どうしようもないなつかしさに駆られた。「ああもう一度聞いてみたいな、そして、あの時のようなくつろいだ日曜の朝に戻りたいな・・」との思いに駆られた。
それで、今日たまたま、ためしにYoutubをアップして「串田孫一・山の絵本」と検索してみたら・・・・・
「あった・・・・!」
Mitchio Mochizuki さんというかたがいくつかの「山の絵本」をアップしていてくれた。ああなつかしいヴィバルディのラルゴの出だしと串田さんのお声。まるでチェロかヴィオラのような音色で森の樹木がささやいているような串田さんの冷静沈着なお声だ。音楽は、バロックだけではなかったんだ。
貴重な音源を提供してくださったMitchio Mochizuki に感謝しながら、ボォーットしながら、しばらく聞き流していた。
この番組のような音楽を聴きながら老境に入られたころの串田さんが何を考えていたのか、また著作を読んでいこうと思った。
串田孫一さん。1915年(大正4年)11月23日生まれ、2005年(平成17年)7月8日、自宅で老衰のため永眠。89歳。
串田さんほど生きられるだろうかと考えたが、あの方のような深い思索がないかぎり、とてもまともに生きていられないだろう直感した。