ジョッパーズ(jodhpurs)とは
インド発祥の乗馬パンツの
事だ。
ポロ競技で英国人が導入して
世界中で「動きやすいズボン」
として人気となった。
膝下はピッタリと締めて、膝
上は伸縮素材が無い時代に腰
周りと腿周辺の身体の動きを
妨げないようにゆったりとし
たデザインで作られた。
20世紀には乗馬パンツとして
スタンダードとなり、各国の
軍隊で将校以上の幹部軍人
の軍服にもなった。
特例的に前後直後の日本では、
戦時中の将校ズボンがタダ同
然で大量に放出されたので、
戦後復興の建設労働者がこぞ
って作業服として利用した。
それゆえトビやビル建設労働
者の定番がジョッパーズと
なった歴史がある。
損耗して日本軍将校パンツが
消滅した後は似たような形の
作業ズボンが作られたが、色
が戦時の軍服色であるのはそ
うした歴史的背景があるから
だ。
将校パンツだけでなく、一般
軍服も大量に戦後から高度経
済成長期に建設労働者に使用
されていた。
大昔のスキー女子。
ジョッパーズはスポーツでも
必須のパンツだった。
似たようなデザインとしては、
ニッカポッカがある。
そちらはゴルフウエアやベー
スボールでの動きやすいユニ
フォームにも形状と機能が
採用された。設計思想はジ
ョッパーズと同じである。
ベーブルース。
日本の江戸時代には馬乗袴と
してたっつけ袴が存在したが、
膝下を締めて膝上をゆるく裁
断縫製する製法は後年の西欧
のジョッパーズと全く同じ製
作思想だっただろう。
世界史の中では日本人が発明
した乗馬専用袴のほうが何百
年も西欧のジョッパーズを先
取りしていた。
1970年代に超人気劇画だった
『ワイルド7』(1969-1979)の
制服は白の将校タイプのジョッ
パーズだ。
1973年にドラマ化されたが、
そのコスチュームはかなり
原作に忠実に再現されていた。
黒ジャケットがブラウンに、
白ブーツがブラウンになって
いるほかはリアル。
その後の映画版(2011)では、
ワイルド7の衣装はジョッパ
ーズではなく、ただのカー
ゴパンツになってしまって
いた。
カーゴパンツのポーチポケッ
トは物入れ。
将校パンツなどのジョッパー
ズの乗馬パンツのフィンは、
伸縮生地が無い頃にギャザー
の代わりに動きやすさを追求
したデザイン。
日本袴のヒダがまったく同じ
機能の為に発生している。
五行の意などは後世の付会で
あり、動きやすい構造からあ
のように発達した。
日本の袴は元々は狩衣だ。思
想は西欧のハンティング&乗
馬ボトムズと同じ発想。
将校パンツにも多く採用され
た乗馬ズボンのジョッパーズ
のヒレと単なるサイドポケッ
トでは、発生も来歴も存在の
意味もまるで異なる。
同じように出っ張ってるから
と、何でもいい訳ではない。
「ワイルド7」を映像化する
ならば制服はジョッパーズを
外せない、というのは強くあ
る。『秘密探偵JA』の次に不
動の金字塔とまでなった原作
者望月三起也先生が描く
作品の主人公スタイルの
根幹部分だからだ。
映画版は物語の作りとしては
原作の雰囲気をよく抽出して
はいた。
だが、お話は子ども向けだっ
た1973年のドラマ版はコス
チュームのほうが原作に映画
版より忠実だった。
ドラマはオートバイは番組製
作会社の関係からスズキが
スポンサードしたが、衣
装は新規に原作に近く全
て誂えていた。
映画では上着は1着数十万円
の誂え革ジャンらしいが、上
は普通の市販ダブルライダー
スでもよかった。パンツに
こそこだわりの演出表現が
欲しかったところだ。
海外では普通に売られている
のに日本では全く製造販売さ
れていない物が二つある。
それは、ビリヤード観戦用の
競技用アームハイチェア(ス
ペクテイターチェア)とジョ
ッパーズのレザーパンツだ。
国内ではジョッパーズの革パ
ンは国産物は一切売っていな
い。
海外ではバイク警官なども着
用しており、一般的に市場に
も流通している。

ジョッパーズにはダブルライ
ダースが定番のようだ。
ワイルド7の制服は、こうした
海外の警官のスタイルがベー
スだろう。
ちなみに、映画『ダーティハ
リー2』(1973)でまるで日
本の劇画ワイルド7のよう
に裁判抜きで悪人を処刑し
ていた白バイ警官はロング
ブーツだった。
しかし、パンツはジョッパ
ーズではなかった。


ブートジャックという器具が
無いとなかなか脱げない靴(笑
私はカカトを片足で踏み
込んで脱ぐが、サイズが
きつい物は専用器具が無
いと脱げない。
その後のロングブーツへの
バックジッパーの採用がい
かに優れたものであったか。
モーターサイクルのレー
スのブーツは、現在は全
てジッパー開閉式だ。
特例的に神奈川県警の白
バイ隊は、他の都道府県
がふくらはぎ中ほどの長
さのブーツが多い中、将
校ブーツのようなロング
ブーツを制式採用してい
る。内側ジッパー式だ。
白バイのこのロングブー
ツは全国的に珍しい。

神奈川県警白バイ隊採用の
ブーツ実物。安全靴メーカ
ーのシモンが製造している。

千葉県警白バイ隊もシモン
製を採用しているが丈が短
く、神奈川県警の制式ブー
ツは特注品だろう。一般の
民間市販ラインナップには
神奈川県警制式のロング物
は存在しない。
こうした採用方式は、軍の
エリート特殊部隊における
ベレー着用と同じく、隊員
の特別エリート意識と自負
を付与するのに極めて効果
的な着装規定選定軸線にな
る。
他のどことも異なる自分た
ちだけの装備品。
隊員たちも士気が高まる事
だろう。神奈川県の白バイ
隊員になれないと履けない
全国でも珍しい職務用ブー
ツだからだ。
デザインはあたかも将校ブ
ーツであるかような意匠的
にも優れた逸品だ。

