昨夜、「ストレイト・ストーリー」という映画を観ました。ずっと観たかった一本なんですけど、なんとなく先送りにしていたんです。でも、観て良かったなぁ。
舞台はアメリカの田舎です。長年音信不通だった兄が倒れたと聞き、彼に会うために、おじいちゃんが時速8キロのオンボロトラクターで500kmという長い長い旅に出る、というお話です。実話が基になっています。
大きな音を立てて追い抜いてゆく大型トラックを横目に、田舎の雄大なトウモロコシ畑の風景の中を、ただひたすらトラクターでゆっくりゆっくりと走るおじいちゃん。そして、その旅の中で幾つかの人との出会いが描かれます。
「ツイン・ピークス」シリーズや、名作「エレファント・マン」、そして個人的にはこの監督のセンスの極みだと思っています、超強烈かつ謎の作品「イレイザーヘッド」といった、いわゆるちょっと「エグい」映画を撮ることで有名なデヴィット・リンチ監督にとってはちょっと異色とも言えるハートウォームな映画でした。この映画を観ながら、昨夜は色々な事を考えさせれました。
主人公のおじいちゃんは73歳。目が悪くなってしまい、もうクルマの運転はできません。その上、腰も痛めてしまい、杖を二本もつくようになってしまいました。医者にもタバコをやめろ、食べ物も節制しろ、といわれますが、ガンとして聞きません。とっても頑固で、無口で、でも強くて、そして優しい。そして、人生を長く生きてきた人だからこその、機知に富んだ物言いの数々。
ネタバレになりますが、少しだけ彼の言葉を引用させていただきたいと思います。(劇場CMでも使われていたセリフですし、これを読んでも、決して映画を観る妨げにはならないと思いますので。)
ある晩、サイクリングの若者達と出会い、一緒にキャンプをしながら、
「若い頃は自分が歳をとるなんて思わないものさ。」と言います。
歳を取って良かったことはないのか?と若者に訊ねられ
「そうだな、目も耳も、体も悪くなって、いいことなんて何一つ無いよ。・・・ただ、経験だけは積むからね、・・・実と殻の区別はつく様になったよ。つまらないことには、こだわらなくなったよ。」
では、歳を取って一番悪かったことは?と訊かれ、
「最悪なのは、・・・自分が若かった頃の事を覚えていることさ」
これはね、決して額面通りのネガティブな言葉だとは思わなかったんです。僕ごときに上手な説明は難しいんで、映画を観ていただければわかるかもしれないので、よろしかったら。
考えてみたら、僕ももう38歳です。このおじいさんの歳、73歳までなんて、もうあと半分もないんですよね。
30年後、40年後、そして50年後。そんな先のことはわからない、というのは、もっともな話です。僕にしたって、たった1年後にどこで何をしているのか、本当に見当もつきませんし、皆さんもきっと、言ってしまえば同じでしょう。ドンガラガッシャーンもありますし、逆に思いもかけなかった幸せに出合っていることもありえるのですから。今までだって、予想通りだったよ、なんてことは、まずありませんでした。
ただ、例えば30年後は突然やってくるわけではないんです。先日書いた温暖化による海面上昇云々だって、100年後のとある日の朝、突然バーンと1m海が盛り上がるわけではないんです。毎日、少しずつ、徐々に物事は進行していくんですよね。
僕達全員の唯一共通のゴールである「死」というもの、そして、それに向かう過程での「衰え」「老い」も、勿論そうです。何事も序々に「ソレ」に向かっていっているんですよね。
例えば僕の親も、まさか自分が還暦を迎えるなんて、子供のころは思っていなかったでしょうし、もうこの世にいない幾人かの祖父母達も、彼らが10代、20代の頃に、まさか自分がお墓参りされる側に廻っているとは、ゆめゆめ思っていなかったことでしょう。
気付いたときには、体の自由が効かなくなっていて、ハタと「しまったなー、アレやっておけば良かったなー」なんて思ったりするのが、我々の人生かと。
なので、一見長そうに見える人生も、日々の連続の延長線上でしかない、ということなんですよね。あ、決してネガティブなことを書いているつもりはありませんのでー。明日の自分は、来年の自分は、今日、今年、しっかり作るのさ、という。
まぁ、映画の影響か(笑)、少々話が固くなりましたが、とにかく間違いなく限りあるこの毎日を、できるだけ大切に生きてゆくとしましょうね。
しかし、やだね、年取るとうすら説教くさくなっちゃって(←僕のことです。笑)。
僕は、30年後にはもうちょっとましなピアノが弾けるおじいちゃんになっていたいんで、今日ももう少し頑張ってみようかと思っています。ま、でもやっぱりアセらず、サボらず程度がいいと思ってるんですけど(笑)。
ではー。