僕のブログの左下の「SEARCH」というボックスに「厚見さん」と入れると、数ページに渡ってかなりの数の記事が検索されます。
僕と厚見さんが、実際にお会いできた時の事は、そのうち最初のものに書きました。それはもう二十年も前のことですが、今でも、昨日のことのように思い出されます。それゆえ、この日のものも随分長い記事ですが、あっという間に書き上げたような覚えがあります。
その出会いから、さらに6年ほど遡ります。高校に入ってバンドを始めたばかりだった僕は、たまたま、当時から有名なキーボーディストだった難波弘之さんが司会だった(アシスタントはデビューしたばかりの中村あゆみさんでした)という理由で、NHKの「ベストサウンド」という番組を毎週見ていました。 そして確か、この1985年5月29日の「ポリシンセで曲に厚みを」の回のゲストが、厚見さんだったのです。あのJUPITER-8を使って、「BABY IT'S ALRIGHT」(『BEAT OF METAL MOTION』収録)のイントロや、「ROCK YOUR CREADLE」(『CYCLONE』収録)のBsus4のアルペジオの間奏部分(オルガンソロの前の部分とこですね)などを弾かれていました。
その「BABY~」のギターリフの間を埋めるJUPITER-8の速いパッセージを弾かれた時のことです。スタジオはアマチュアのミュージシャンの方も居て、とても和やかな空気でした。「じゃあ厚見クン、お願いしまーす」と笑顔の難波さんに促されて弾き始めた厚見さんは、最後の長い連続フレーズのところで「あっ、間違っちった(笑)」と、パッと椅子から立ち上がり、くるっと一回転して椅子に戻り、ちょっと照れ笑いをしたように指を一本出して「すいません!」と、一言謝られたのです。そして、「では、もう一回」と言って、次は華麗に決められたのです。といって、一回目の演奏のどこが間違いだったかは、当時の僕にはよくわかりませんでしたが(とにかく、運指の複雑な速いパッセージなのです)。
実はこれが、それからの僕の人生を決める大きな出来事だったのです。
それまでは、テレビに出ているような人というのは、完全に自分とは区別していましたし、ある意味”虚飾”の中の人というイメージもありました。レコード中やステージの上の人も自分とは絶対に別な何かだと、どこかで思っていたのです。
でも、この厚見さんという人は、今、ほんのちょっとの弾き間違いをして「すいません!」って謝った。普通の人はどう思うかわかりませんが、僕にはむしろ、ある意味嬉しいカルチャーショック(うわ、同じ人間なんだ!ってね)でもありましたし、そして、その潔さがとってもとってもカッコよかったのです。一気に”厚見玲衣”というミュージシャンの魅力に吸い込まれた瞬間でした。
今になってみても、よくよく思います。
プロのミュージシャンだって人間。(今の僕自身がそうであるように)当たり前ですが、時には(僕はいつも)間違うことがあって、いや、あるからこそ、でも本当に大切な時には間違わないように、だからこそ徹底的に練習して、きちんと決める。それが、プロのミュージシャンなんだよ、って、僕はあの数十秒で教わったのです。
それから長く厚見さんのプレイを見せていただいていますが、いつだって、全身全霊で鍵盤に向かい、いつも真剣極まりない、鬼気迫るプレイを見せてくれます。それが、どれだけ集中力のいることか。どれだけの思いで、あの小さな鍵盤たちに指を置いていることか。しかも、あの速さで。
(ちなみに「BABY IT'S ALRIGHT」のA(11)崩しのあの速いパッセージ、厚見さんのように正確にタイトに弾ききるのはかなり難しいです。僕も当時、真似したくて毎日何度も練習しましたが、成功率は・・・内緒です(笑))
そして、その後のコーナーで、VOWWOW全員で「LOVE WALKS」が演奏され、僕は皆さんの演奏と予想を10mほど超えたあの元基さんのシャウトで3mほど後ろにぶっ飛んで(立体的に大変でした(笑))、翌日、慌ててレコード屋さんに走り「CYCLONE」を購入したのです。高校二年生、16歳の時でした。
そして、約6年の年月が流れ、1991年の春、僕は斉藤光浩さんのソロライブに出演する直前の厚見さんに出会うことが出来たのです(そのあたりの流れは、冒頭ご紹介した過去の記事の通りです)。
・・・すみませんっ、また長々と書いてしまいました。
ではいよいよ、「アックスの奇蹟」における厚見さんの写真をどうぞ。もし写真から音が出るなら、リハーサルとは思えない、素晴らしい演奏もお聞かせできるところなのですが。
当日、僕が会場に着くと、すでにリハーサルは始まっておりました。そそくさと荷物を置いた僕は、すぐに厚見さんのセットの裏へ走り、スピーカーの隙間でカメラを構えました。ファインダーの中には、じっとピアノに向かう厚見さんの姿。
音に聴き入りながら、僕はシャッターを切り続けました。トップの写真も、その一枚です。
厚見さんはトレードマークのような音を沢山お持ちです。ミニ、ハモンド、JUPITER-8、メロトロン、あるいは他のどんなキーボードやシンセを使われても、いつも「厚見さんの音」がします。厚見さんから、厚見さん以外の音が出てくるのを、僕は一度も聴いたことがありません。
そして僕は、厚見さんのピアノが本当に大好きなんです。世界中の誰とも違う、あのダイナミックで、繊細で、なんといっても強烈にドラマティックなピアノが。
スッと立ち上がりますが、右手はピアノに置いたまま。そして、
左手をDX-7へと伸ばします。
DX-7はJUPITERと繋がっています。あの日も、JUPITERの音の特徴でもあります、協力なPWM(PULSE WIDTH MODULATION)で心地よく滲む、太い”あの”音色に、さらにDX独特の立ち上がりの速いアタック音などを重ねた、気持ちのいいサウンドを聴かせてくれました。
正面を開けたセッティング、なんといっても、この機材たちの中で両手を広げてて立つ厚見さん。・・・ううん、カッコいいです。
セットのカタチ自体は普遍的なものですし、思えばどこかでも見れた姿でもあるようですが、この機材たちと一緒となると・・・実は、この20年間一度も無かったこと。皆が待ち望んでいたお姿でしたね。
VOWWOWの厚見さんと言えばJUPITER-8、JUPITER-8と言えばVOWWOWの厚見さん。
二台のミニのチューニングする厚見さんです。ミニムーグを普通にピアノの仲間だと思われている方にはビックリかもしれませんが、鍵盤楽器とはいえ、ミニはチューニングが不安定で、激しく弾けば勿論、ただ放っておくだけでもすぐに弾けなくなってしまうのです(そこがまた可愛いのですが)。ですから、弾く前には必ずチューニングをしなければなりません。その為、ミニにはチューナーが必需品なのです。僕のミニにも付いています(僕は、20年前の厚見さんに憧れて買った、同じBOSSの旧型のモデルをまだ使っています)。
TRITON Extremeを弾かれる厚見さん。これは単体でも鳴らされますが、MKS-80にも接続されていて、あのピュンピューン!という「87番の音」と一緒に鳴らすと(←マニアックすぎてわからないかもですが)、中野サンプラザのオープニングがほとんど再現できるのです(当時はMKS-80+DX7で出していたそうですが、今はTRITON Extremeの方がお気に入りだということです)。
そして、誰もがお待ちかねの厚見さんのミニムーグソロです。「きたあっ」って思いますよね。それにしても、どうして厚見さんが弾くとあんなにいい音がするんでしょう。
厚見さんは最近は「ミニモグ」、と仰います。
渾身のビブラートが掛かります。
厚見さんのミニムーグのビブラートの美しさは、間違いなく世界一だと思います。・・・というか、他に同じアプローチでミニムーグを弾いている(弾ける)人がそもそもいない、という話でもありますが(僕の知る限りにおいては)。
一度でも実際にミニムーグを弾かれたことのある方ならお分かりかと思いますが、不思議なほどに弾いているこちらの感情を昂ぶらせてくれる楽器なのです。
こんな僕ですらそうなのですから、あんなに官能的なフレーズを自ら弾いている厚見さんは、ご自分の音をどんな気持ちで聴きながらプレイされているのでしょうか。変な話ですが、・・・うらやましいなあ、なんて思ってしまったりします。
ソロが、最高潮に達します。聴いているこちらも、一緒にドンドン盛り上がります。足に震えが走ります。全身に鳥肌が立ちます。ああ、音で、こんなにも気持ちよくなれるなんて。厚見さんのミニムーグは、本当に最高です。
ドンッ(写真ではこれが限界、精一杯)。
大きく身を翻して、愛器ハモンドC-3に向き直る厚見さん。
最高に気持ちいいサウンドの次にも、常にまた最高に気持ちいいサウンドが次々に繰り出されます。それが、厚見さんのキーボードの魅力ですよね。全部が、最高なんです。
200kgもあるハモンドを、グワングワンと揺らすようにプレイされます。
実は、揺らしているのは、カスタムでレズリー147RVから移植された(←おそらく)スプリング・リバーブ・ユニットを揺らして「ガッシャーン!」という、あの、ジョン・ロードなどでもおなじみのクラッシュ音を出すためなのです。あれがまた、本当にいい音なんですよね。スプリング(要するにバネ)がビヨンビヨン!ってクラッシュする音が気持ちいいって・・・(笑)。音楽って面白いですね。
厚見さんのハモンド・プレイは、20数年前のVOWWOW時代から今日まで、どんどんどんどん進化しているように思います。VOW時代は勿論、厚見さんファンなら外せないCASINO DRIVEの名盤「FEVER VISIONS」「エデンの裏口から」でのハモンド・プレイも凄まじいものがありますが、それからも清志郎さんのサポートでもずっとメインとして使われていまたし、なんといいますか・・・、先日のアックスでのオープニングのソロで度肝を抜かれた方も多いかと思いますが、本当に今、凄いことになっていると僕は思っています。うーん、やっぱりハモンド、欲しくなります(←独り言)。
おなじみ、左手を大きく旋回させての、あの奏法。これまた「きたーっ」って会場が沸く瞬間ですよね。
そして、また突然向き直っての、
この片足を上げての、決めポーズです。このポーズを見るだけで、あのゴージャスな音が聴こえてくるようです。
そして、
厚見さんは、ご存知「MOONDANCER」そして、残念ながら今では手に入りづらい「TACHYON」ではメインボーカルをとっていらっしゃいました(MOONDANCERの前身バンドであります「SIREN」でもです)。
この日は、Roland VariOSにボコーダーカードVC-2を挿してのクリスマスならではプレイも聴かせてくださいました。お電話で確認しましたら、VOW当時はKORG DVP-1をお使いになられていたとのこと。「DVPの方が好きなんだけど、音が元々こもってるからエキサイターをかまして使ってたんだ。でも、そうするとノイズがオニのようでさ(笑)。今回は1Uだっていうこともあって使ったVariOSだったけど、音がハイファイだから、『DON'T LEAVE ME NOW』の間奏部でハウらないで使えたのが良かった点かな。」とのことでした。
僕は厚見さんの歌も大好きです。
そして、こればっかりはどんな天才が一日50時間練習したとしても、どんなお金持ちが大金を払っても、絶対に手に入れることが出来ないもの。
まさに、厚見さんだけが持っている、ワン・アンド・オンリーの宝物。
レパートリーの多い厚見さんですが、ご参考までに、今日は最後にこちらの代表曲をご紹介した記事を。
僕は厚見玲衣さんという、”本物のロックキーボーディスト”と同時代に生まれ、育ち、ずっとこの背中を見続けてこられて、本当に幸せだと思います。
あまりに沢山のものを頂いています。心から、厚見さんに、感謝です。
次回は、番外編としまして、この「アックス奇蹟」を厚見さんと共に起こした方々を(可能な範囲でですが)ご紹介させていただきたいと思います。
ではー。