【オープニングの14日には「序の宴」としてシューベルト特集】
今年で3回目を迎える音楽の祭典「ムジークフェストなら」が14日開幕した。29日までの16日間に100を超える会場でクラシックを中心にした多彩なコンサートが繰り広げられる。初日の14日夕には「序の宴 菩提樹の花咲く頃に」と題して、シューベルトの歌曲「冬の旅」とピアノ五重奏曲「ます」の演奏会がなら100年会館(奈良市)で開かれた。
今回注目を集める演奏家の1人がピアニストのアルバート・ロト(写真㊧)。主な演奏会だけでも14日を皮切りに16日、20日、22日と相次いで出演する。ロトはポーランド人の父とウクライナ人の母との間に1946年、ニューヨークで生まれた。ジュリアード音楽院卒業。65年にはモントリオール国際コンクールで優勝、翌66年にはブゾーニ国際コンクールで金賞に輝いている。
この日のコンサートはロトのピアノ独奏から始まった。曲目はシューベルトの「4つの即興曲作品142」の第2曲。続いてバリトンの小玉晃(写真㊨)が登場し、「冬の旅」全24曲の中から人気のある「おやすみ」「菩提樹」「春の夢」「からす」「辻音楽師」の5曲を演奏した。この歌曲の伴奏はピアノが一般的だが、この日は弦楽四重奏が担当した。バリトンと弦楽四重奏による「冬の旅」の演奏は国内で多分初めてという。
小玉晃は1969年奈良県橿原市生まれ。京都市立芸術大学大学院修了後、ウィーン国立音大に留学。主にドイツ歌曲や宗教曲の分野で活躍している。「冬の旅」の中でも最も有名な「菩提樹」は情感たっぷりに朗々と歌い上げ、最後の「辻音楽師」では切々と深みのある歌声を披露した。弦楽4人との息もよく合っていた。
ピアノ五重奏曲「ます」ではピアノのロトが繊細な弱音からダイナミックな強音まで多彩な音を自在に紡ぎ出した。その優しく温厚な表情と同様、演奏にも温かみが溢れていた。特に第4楽章の「ます」変奏曲や最終の第5楽章は聴き応えがあった。第5楽章の途中で演奏が終わったと思ったのか、一度「ブラボー」の声が掛かり、その後も途中で拍手が起きる場面があった。ご愛嬌というべきか、それとも興醒めというべきか。
この曲では同じようなことがよくあるらしい。五重奏のうち弦楽器の演奏者はジュリアード音楽院出身のバイオリニスト若林暢、韓国を代表するチェリスト梁盛苑ら4人だったが、梁は「またか」というような苦笑いの表情を浮かべていた。帰路「ブラボーと叫ぶなら、もっと聴き込んでからにしてほしいなあ」とこぼす2人連れの姿も目にした。