【スコットランドの〝国花〟、根や葉は食用にも薬用にも】
キク科アザミ属の多年草。北半球の暖帯から寒帯にかけて約300種が分布、日本にはそのうち3分の1以上が自生する。その多くが固有種という。日本のアザミは夏から秋にかけて開花するものが大半だが、「ノアザミ」は晩春の5月から7月ごろにかけて、ちょうど今頃、本州や四国、九州の山野でよく見かける。
「ハナアザミ(ドイツアザミ)」はノアザミを改良した園芸品種で、花色が多彩なことから切り花として人気が高い。日本で大正時代に作出された。では、なぜ「ドイツ」? その由来は不明だが、品種の目新しさを売り込むために「ドイツ」が付けられたともいわれる。日本原産には他に「フジ(富士)アザミ」「サワ(沢)アザミ」「ハマ(浜)アザミ」「ノハラ(野原)アザミ」「キセル(煙管)アザミ」「チシマ(千島)アザミ」「ナンブ(南部)アザミ」「ヨシノ(吉野)アザミ」「ツクシ(筑紫)アザミ」など。
アザミは葉に鋭い棘を持つ。英国スコットランドではその棘が侵入者から国を守ってくれたという伝説から、スコットランドの国花になっている。その伝説とは――。13世紀、ノルウェー軍が侵攻してきた時のこと。夜の闇に乗じてスコットランド軍に近づいた斥候がアザミの棘を踏み叫び声を上げたため奇襲が発覚し、スコットランド軍が勝利した。10世紀のヴァイキングの侵略でも同様にアザミが救ってくれたという言い伝えもある。スコットランド最高の勲章は「シッスル(アザミ)勲章」。英国全体でも「ガーター勲章」に次ぐ2番目の騎士団勲章になっている。
アザミの根は食用になるものが多い。ゴボウによく似た香りや食感から、山菜や加工品の漬物などが「山牛蒡(やまごぼう)」の名前で売られている。ただ同名の植物に有毒の「ヤマゴボウ」(ヤマゴボウ科)があるから要注意。アザミの若葉は天ぷらやおひたし、和え物などにも使われる。根や葉は古くからやけどや虫刺され、腫れ物などの薬草としても用いられてきた。「越中富山の薬売り」で知られる富山市ではアザミが「市の花」になっている。アザミといえば倍賞千恵子の「あざみの歌」も懐かしい。「ふれてみしあざみの花のやさしさよ」(星野立子)。