【日本の代表的な海浜植物、琵琶湖岸の守山市にも群生地】
ヒルガオ科の多年草で、主に北半球の温帯~亜熱帯地域に広く分布する。日本では北海道から沖縄まで海岸の砂地に自生し、アサガオに似た漏斗状の花を日中、上向きに咲かせる。花期は5~6月。花はうすいピンク色で、直径は4~5cmほど。名前は花がヒルガオに似て浜辺に生えることから。砂地の下で地下茎を四方に伸ばして群落をつくる。
草丈は10cmほどと低い。葉はヒルガオが細長いのに対し、葉先が尖らないハート形。厚くて光沢があるのが特徴だ。葉からの水分の蒸発を防ぐためで、乾燥した灼熱の砂浜という厳しい環境から身を守っている。その逞しさと可憐な花姿から、群生地を抱える自治体の中には「市・町・村の花」に指定しているところも多い。静岡県御前崎市、神奈川県大磯町、鳥取県北栄町、千葉県長生村……。
群落があるのは海岸だけに限らない。滋賀県守山市の琵琶湖岸にも群生地がある。海浜植物がなぜ淡水湖の琵琶湖岸にあるのか。疑問を抱いた研究者が遺伝子構成を調べた結果、海岸のものとは遺伝子構成が異なることを突き止めた。400万年といわれる琵琶湖の長い歴史の中で海から長期にわたって〝陸封〟されたため独自の進化を遂げたとみられる。地元では「湖岸に咲くハマヒルガオを守る会」などが中心になって保護活動に取り組んでいる。京都府南部を流れる木津川河川敷にも群落があるが、府は「レッドデータブック2015」で「ハマヒルガオ府南部固体群」として絶滅寸前種にリストアップした。
ハマヒルガオといえば五木ひろしの歌にその名前ずばりの『浜昼顔』(寺山修司作詞、古賀政男作曲)がある。ただ、もっと年配の方は戦後間もない頃にヒットした『君の名は』(菊田一夫作詞、古関裕而作曲)を思い浮かべるかもしれない。「♪君の名はとたずねし人あり その人の名も知らず 今日砂山にただひとり来て 浜昼顔にきいてみる」。NHKラジオドラマの主題歌で、岸恵子・佐田啓二の主演で映画化もされた。浜昼顔は夏の季語。「浜昼顔烏賊(いか)焼く煙り今日も浴び」(河野多希女)