チャコちゃん先生のつれづれ日記

きものエッセイスト 中谷比佐子の私的日記

着物に学んだこと 7

2018年08月25日 10時18分57秒 | 日記
「では干しておきましょう。お帰りになるまでには乾くでしょう」
と洗面器に張った水に私が染めた(偉い!)ハンカチをさらっと浸して
ハンカチをピンピンと手のしし、ほし竿に干して木の洗濯バサミでとめてくださった
(その一連の作業を流れるように仕上げる色香女性、手が指が白魚のように美しい何者?)

「この洗面器の水はなんですか?」
「これ?ふのりですよ」
「ああー母がよく使っています染色にも必要なのですか?」
「仕上げに使うと色が安定するのですよ」

「あっちへ行こう」
おじさんがあの小川を引いた家の方を指差す
(えっまた日本酒?)

と思いきや机の上には本の山
一番上に「初恋」という題名の本
手に取ると「山崎斌著」と読める
「あれーおじさんいえ先生は小説もおかきになるんですか?」
もともと小説家志望4冊ほど書いて出版しているという
「しかしね友人が島崎藤村、若山牧水という錚々たる人たちで物書きは彼らに任せることにした」
自分の天命はもっと違うところにあると思ったのだという

と昭和8年に山崎斌さんが出版した「日本草木染譜」という和綴じの書物を渡された
「初版の序」に島崎藤村からの寄稿文が載っていた

原文を紹介する

これはウイリヤム・モリスの仕事に近いと思って、以前にわたしは山崎斌君の思い立ったことを生活と芸術と労働との一致に結びつけ、その前途にふかく望みを寄せたことがあった
木の皮、草の根、その葉からも、その実からも染むべき材料を採って、織るべく、着るべきことをしっていたわたしたちの先祖が手工業のいとなみは、君によって生き返るいとぐちを得た。
荒無を切り開くほどの愛と忍耐とがなかったなら、君の仕事もここまでは進み得なかったであろう。

今や君の草木染圖説一巻が成る。

遠く奥羽の野の末まで、紫の一もとを探り求めるほどの君の熱心から、この一巻がうまれた。
これは、土と木と草の香りでいっぱいだ。
おそらく後の代の人もこの愛すべき書物から得るところは多かろうと思ふ。

わたしは山崎君の平正を知るところから、更に君の仕事の成長を希ひ、進んではかの光悦の腸(はらわた)を探り古人が遺したこころざしにもかなひたまへと書いて贈る
島崎藤村 昭和8年夏の日、麻布飯倉で

この序文を読む間山崎斌さんは私をじっと見つめていた
わたしはお二人の深い友情と愛に胸が一杯になり涙をためた目で
「わたし日本の着物の奥にこういう文学的なこと思想や高い志が隠されていたと思っても見ませんでした」

「この草木寺にお邪魔して本当に感謝です
先生におあいしたこと宝です」

「ははは、先生でなくおじさんでいい。ありがとう」つづく





コメント
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