札医大が実用化研究 運動まひ改善に効果
札幌医大は、脳梗塞の患者本人の骨髄の細胞(骨髄幹細胞)を利用して症状を改善する新しい治療法の実用化研究を始めた。世界的に注目されている最先端研究で、本年度から2013年度までの5ヵ年。07年度から行ってきた初期臨床研究の結果を踏まえ、一般医療への普及を目的としており、10年以内での実用化を目指す。
実用化研究は9月、基礎研究を臨床治療につなげる文部科学省の「橋渡し研究推進プログラム」の一つに採択された。全国13件のうち道内では唯一。神経再生医学講座の本望修特任教授(45)のチ-ムが担当し、研究費3億5千万円の全額が助成される。治療法は、骨髄幹細胞が細胞の再生を促し、また、損傷した臓器の細胞に集まる「遊走能」という性質を持つ点に着目。①骨髄液を採取し、抽出した骨髄幹細胞を1億個まで培養②幹細胞を静脈点滴で患者に注入③幹細胞の数%が、損傷した脳細胞に集まって細胞を再生するタンパク質を放出し、新たな血管が形成され、細胞の再生が始まる-という流れだ。初期臨床研究では、道内外の41~73歳の男女12人に臨床試験を実施。発症1~5ヶ月後に骨髄幹細胞を投与した結果、程度に差はあるが、全員に運動まひの改善などがみられ、職場復帰した人もいる。今回の実用化研究では、臨床試験を年間数十例まで増やす予定。年齢別や性別、患部の大きさや部位、幹細胞投与時期など、各ケ-スでの障害状況の変化などのデ-タを蓄積し、効果的な治療法を確立する。早期投与を可能にするため、脳梗塞を起こす恐れのある人から事前に幹細胞を採取して保管する「幹細胞バンク」の整備も、続いて拡充していく。この治療法は、ヒトの受精卵から取り出しす胚性幹細胞(ES細胞)とは異なり、患者自身の細胞を使うため、拒絶反応や倫理面などの問題が少ない。骨髄液の採取と点滴は一般的な医療技術として普及しており、臨床現場への導入も容易という。本望特任教授は「後遺症で日常生活に苦労している脳梗塞患者のためにも、可能な限り早く実用化にこぎ着けたい」と話している。
脳梗塞 能の血管が血栓(値の塊)で詰まり、脳細胞が酸素不足などで壊死(えし)した状態。死亡したり、まひや失語症などの障害が残るケ-スが多い。全国で毎年30万人が新たに発症し、後遺症に悩む患者が140万人に上るという。